花柵わわわの二ノ国箱庭

主に二ノ国の二次創作をやっております。たまに別ジャンル・オリキャラあり。動物も好き。 Twitter始めました→https://mobile.twitter.com/funnydimension

【二ノ国小説】part8「歌姫に捧ぐ雑音奏楽」 【※ks&グロ注意】

皆さんこんばんちは(*・ω・)ノ

いやぁ、最近脳が腐ってきた気がすんねや(((爆
在学中は補習もない日曜日を待ちわびたものですが……長い長い休みって案外ありがたくないもんです。
…中学時代の部活仲間とキャッキャウフフなお食事会とか嬉しいこともあったのですがね(*´∀`)

さて、話も変わりまして(唐突)
今回の話書いてふと思ったことがあるんですよ。
擬人化エビ君は生真面目と見せかけて、実はジャボーさんと別種類の厨二なんじゃないかってn((殴
ジャボーさんを邪気眼系厨二と仮定すると、擬エビ君はクール系厨二だろうか ((知るか
普通に真面目な騎士のイメージで書いたんやけどorz
その辺の判断は読者様に任せまする\(^o^)/ナゲタッ

~追記~
今回はお試しで挿絵をデジタル化してみました…が、アナログ人間筆者の力不足でかなり見苦しいことになっております((ヲイ
デジタルにはデジタルの問題があるのだと思い知らされた今日この頃。
アナログ時と同じような塗り方したら、おっそろしく時間かかったり…1枚目がまさにそんな感じです。
人物描くだけで力尽き、背景がお粗末になって、2枚目ではアニメ塗りに逃げる有り様…。
(単に逃げたのではなく、アナログ時からアニメっぽい雰囲気出したいとは思ってたし、アニメ塗り自体は好きです。
…てか挿絵の時はアニメ塗りで行こうかな)
デジタル用の描き方を研究せねばなりませんな(´・ω・`)

遂に二ノ国へ訪れたオリバー一行。
束の間の休息の夜、二ノ国は音も立てずに変化していた。

では今回も…ゆっくりしていってね
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二ノ国 magical another world

天地照光~金煌なる光の鳳凰~





~ババナシア王国入口前~

「何やナシウス、朝っぱらからやる気溢れさせよって…。
ヌケガラビトおったら分けたいくらいや」
再び砂漠が熱せられる朝、シズクは広大な砂地にアクビを響かせる。

彼とシズクは、ナシウスの一声で目覚める。
いつの間にか、仰々しく大剣を持ち座を組むエビルナイトの姿も見られた。
どうやら、二人はほとんど寝ることなく、各々の勤めを果たしたようだ。
僅かな休息でこれほど活動が出来るとは、彼らが夜に受ける恩恵は大きい。
こうして無事に休息を終えた一行は、再び広大な砂漠に赴く。

「だからこそやる気を出さないと!
今日は1日がかりで皆を捜すから、そのつもりで頼むよ!」
全身からやる気を迸らすナシウス。
休眠1時間だったとは思えぬ威勢の良さだ。
「勿論だよ、今日こそ頑張らないとね!」
オリバーもまた、仲間達の捜索に精を出すつもりだ。
「それで…彼らの居場所に対する見当はついているのでしょうか?」
「うん……ただ、それらの所まで行くのは難しいよ」
エビルナイトの問いに、ナシウスは表情を曇らせて答える。
「“それら”か…複数怪しいトコがあるんやな?
ほんで、難しいってのはどういうこっちゃ?」
シズクも当然のように質問を飛ばした。
「僕が明らかに怪しいと思ったのは“ナーケルナット遺跡”と“大氷河穴”…そして“ゴーストの谷”だよ。
何が難しいかっていうのは一旦置いとこうか」
「置いとくんかいっ!?
…しっかし、何か引っかかる配置やなぁ。
“ゴーストの谷”っちゅーのに違和感あるわ」
ナシウスが挙げた三カ所に疑問を浮かべ、考え込むシズク。
「…ナーケルナット遺跡と大氷河穴には“魔石”があったのに、“ゴーストの谷”だけ違うから?」
「せや、せやぁ~!」
思い付いたようにオリバーが付け足すと、彼の表情が一瞬で晴れる。

“魔石”とは、バルゼノンの対となる杖“グラディオン”の力を引き出す三つの宝玉だ。
バルゼノンを手に入れる前のこと、オリバー達はジャボーを倒す手段として“グラディオン”を手にした。
手にした当時は未完成で、力を引き出すための“魔石”が無かった。
これらを探す内に、“空族王”ヘブルチや“飛竜”クロの協力あってその在処に辿り着いた。
それが“ナーケルナット遺跡”、“大氷河穴”、突如現れた“幽霊戦艦”の三カ所である。

「ちゅーことは、“ゴーストの谷”は“幽霊戦艦”の代わりかいな?」
“幽霊戦艦”のみ今は存在しない。
そこに乗る船長や船員の霊達と共に成仏したからだ。
「おそらく…まあ、ルーフ達が“魔石”を意識したかは分からないけどね。
どの場所も人を隠すには打ってつけだから、単純にそれだけの理由かも」
ナーケルナット遺跡、大氷河穴、ゴーストの谷は皆、危険で広大な環境を持ち…この三カ所で人一人を捜索するのは難儀となる。
一般人では隅々まで探索するのも厳しいだろう。
これには、ナシウスも敵ながら感心させられた。

「…して、ナシウス様。
その三カ所に限定して考えたのには、何か根拠があるのでしょうか?」
再び鋭い質問を飛ばすエビルナイト。
主相手だろうと、疑問点は徹底的に追及する質のようだ。
「それは…この三カ所に行くのが難しい理由に関係するんだ」
対するナシウスも、慣れによるものかしっかり疑問を受け止める。
「どういうことなの?」
「…まあ、説明を聞くより“体験”した方が早い。
まずはその三カ所に行ってみよう…どこからにする?」
「……?
分かった…じゃあ、まずナーケルナット遺跡で。
とりあえず“テレポート”で行くよ!」
疑問を別のそれに変えられたオリバー。
しかし、ナシウスの言うとおり現地へ行かぬことには始まらない。
術者が知る場所に瞬間移動できる魔法“テレポート”を使い、まずは“ナーケルナット遺跡”へ向かうことにした。



~ナーケルナット遺跡前~

「着いたよ…って、アレ?
何か身体がおかし…うわああああ!?」
「何言うてんね…ひゃあああああっ!!?」
「うっ……これは…!?」

“テレポート”で瞬時に遺跡前まで来た一行。
だが、それ故彼らの身体は急に異変を起こす。
「成る程、瞬間移動だとこうなる訳か。
…何か酔いそうだよ……」
こう呟くとナシウスは、初めての変化に戸惑う三人を見る。
「見てる景色は変わらないのに……“地面と空がひっくり返った”みたいに感じる…」
オリバーはよろめき、酷く動揺した。
「地面に捕まらんと“空の中に落ちる”気ぃするでぇ……ナシウス、これは何や!?」
思わず地面に張り付くシズク。
彼に呼ばれたナシウスが、説明を始めた。

「これが、此処含む三カ所に行くのが難しい理由。
“見えない境界線”があって、その線を越えると上下感覚を狂わされるんだ。
“テレポート”で着地したのはそれを超えた所だから、いきなり影響を受けたんだね。
他の二カ所も同じ状態さ」

「これを仕掛けたのも…アヤツらか」
「そうだね…上下感覚が“反転”した辺り、あの銀髪少年の仕業かな」
エビルナイトの呟きにも答える。
一ノ国で逢った時の銀髪少年は、自らの力を“鏡”と称した。
それになぞらえた能力ならば、何かを“反転”させることも出来る筈。
「…エビル、君は戦闘時以外控えていてくれ。
余計な負担を避けられるなら、君だけでも万全の状態で戦って欲しい」
「御意」

イマージェンには、育成カゴや主の心中といった安全地帯が用意されている。
ならばこれを使わぬ手はない。

こう考えたナシウスは、エビルナイトを自らの心中へ収めた。
「オリバー、シズク…僕らは頑張って奥を目指そう。
中の変化に関しては未知だけど、僕らならきっと大丈夫だ」
次にオリバーとシズクの方を向き、微笑みつつ言う。
「うん、辛いけど…首輪を付けられた皆はもっと辛いんだ。
僕達が迎えに行かないとね」
狂った上下感覚に慣れたか、それすら気にしなくなったのか…オリバーも力強い笑みを返した。
「せやけど……やっぱちと不安やな」
シズクが浮かべるのは、同じ笑みでありながらオリバーと正反対の弱々しいそれだ。
「当然、慎重に進むべきだよな。
…でも思い切って入ろうか!」
彼を明るく諭すと、真っ先に入口へ近付くナシウス。
残る二人もそれに続き、一行は遺跡の中に消えた。



~ナーケルナット遺跡内部~


「おや、意外に何も変わってないね……アレ」
言いながら、ナシウスは何故か“入口へ戻ろう”とする。
「何してん、もう出てまうんか?」
怪訝な顔で彼を見るシズク。
「いや、違うんだよ…“前に進む”つもりで一歩出たんだけど……」
彼は困惑した様子で答えた。
この言葉が気にかかり、オリバーとシズクは顔を見合わせる。
「 それってまた…」
「まさか…なぁ?」
それから二人で“前に進もう”とした…が。
「……アレ?」
「また“反転”かいなっ!?」
二人共“入口に向かって”歩いてしまう。
彼らを見たナシウスが苦笑し、ある結論を言った。
「今度は前後左右の感覚が“反転”したね…これは厄介だよ。
上下感覚が狂ったまま、前に進む時は“後ろに戻る”つもりで一歩を踏み出さなきゃいけないんだ」
これを聞き、シズクが深いため息をつく。
「アカン…これでアイツら探さないかんのか……。
ボーグの兵士やら、賢者やらがおっても見つからん訳や…」
「で、でもこれだって慣れれば大丈夫だよ!
今の上下感覚だって、もう慣れてきたしね」
「せやなぁ…しゃーない、腹くくったるでえぇ!」
オリバーが諭すと、彼はヤケクソ気味に声を飛ばした。



この遺跡は、元々ババナシアに伝わるおとぎ話の舞台である神殿だった。
故に内外全て石造りで、所々に蛙や蛇を象った石像が置かれている。
また、入口を真っ直ぐ行った先に、前に立つ者を蛙に変えてしまう蛇の石像がある。
が、少し前ジャボーの手で復活した“蛇軍師”ファラージャがオリバー達に倒されたためか、今は機能していない。

「魔物達も随分混乱してるね…」

移動中、ふとオリバーが言った。
視線の先には…突然の異常に戸惑い、奇妙な踊りを見せる魔物達が点在している。

非常に珍妙な移動方法で、何とか内部を進むオリバー達。
状況が状況なので無闇な戦闘は避けようと、“隠れみの霧”という魔物から身を隠せる魔法を使い進んできた。
とは言え、本来ならこの魔法も必要ない。
オリバー達自身の強大な力を感知し、魔物達の方から逃げていくのだ。
しかし、魔物達も彼らと同じ異常を起こしていた。
それ故、逃走を図って逆にこちらへ突進してくる。
最初は彼らも驚かされ、かくして“隠れみの霧”を使うことに。

「何や…アイツらもえらい可哀想に見えるわ」
シズクも、渋い顔をして魔物達を見る。
「余所者を襲うことはあっても、此所で暮らしているだけだからな…とんだとばっちりだよ」
ナシウスも同じ方を見て言った。
「ねぇ、この遺跡を元に戻せないかな?」
二人に言うオリバー。
対するナシウスが、悩ましげな表情を浮かべた。
「うーん…遺跡のどっかに、この術を解く仕掛けがあれば良いけどね。
術者を止めない限り駄目な可能性もある…」
「そっか…」

「おい、奥の方に何かあるでっ!」

突然、シズクが立ち止まってこちらを振り替える。
探索する内に、遺跡内奥の広間に着いたらしい。
そして彼の指差す5m程先には、花を模した華美なハープが置かれていた。
彼らなら一目で分かる……マルが普段使っている物だ。
「アレは…マルのハープだよ!」
オリバーがそう言うと、彼含む3人はハープに駆け寄る。
それの周囲に立つと、上から眺めた。
「此処に置いてかれた時、マルが落としたんだろうね…」
「てことは、此処に居るのってマル!?」
「せやな、こりゃもう間違いないないでぇ」
三人で軽く話し合うと、今度はナシウスが次の道を示す。
「…あと見てない場所と言ったら、正面の門と牢屋行きの通路か」

広間の正面には巨大な門がある。
この先は、かつてオリバー達がファラージャと戦った、遺跡内最奥の部屋。
そして、この門を正面と見て右にあるのが、小さな牢屋に続く薄暗い通路だ。
本来何の目的で設置されたかは不明だが…オリバー達はその牢屋で、おとぎ話の主人公となった“カエル王子”を発見した。

「どっちに行こうかな…」
「門の方は、中の様子が全っ然見えんからな……通路はすぐ戻れるし、危険も少ないんとちゃう?」
「うん、そうだね!」
オリバーのシズクの話し合いで、通路に行く線が濃くなる。
「シズクの言う通りかな、僕も異論はない」
ナシウスもあっさり納得したので、一行は早々に狭い通路へ入った。



「っ……!何者だっ!?」
「うおぉっ!?
…ビビったわぁ、何や自分ら!」
牢屋前まで辿り着くと、その中に鎧を纏った4人の男達が居た。
彼らの内の一人が、オリバー達を見るやいきなり剣を突き付ける。
…が、その剣はかなり刃こぼれしており、殺傷力はほぼ無さそうだ。
「その鎧…アナタ達は、ボーグ帝国の兵士さんですよね?」
暗くてよく見えないが、4人の鎧は体躯より大柄に造られた、ボーグ軍特有の物。
最初にオリバーが気付き、そっと彼らに話しかける。
「君達は………もしや、陛下を救って下さったいつぞやの…!
そうです…自分らは陛下含む行方不明者捜索にかかる、ボーグ帝国軍の者…。
…申し訳ない、何卒ご無礼をお許し下さいっ!」
すると、剣を構える兵士もオリバー達に気付いたらしい。
他の兵士達と共に、深々とお辞儀する。
「あ、いや…仕方ないですよ、こんなに暗い場所ですから。
どうか気にしないで下さい……」
大袈裟な謝罪に困惑しつつオリバーが宥めると、彼らは安堵の息を漏らした。
「…それで、アナタ達は何故この牢屋の中に?
先程の剣も、見たところ使い物になりませんが……」
問うナシウスの口調に、日々国の守護を務める彼らへの敬意が表れている。
寿命の域を越え、老いることなく生きると、年齢の上下も気にならなくなるのだろうか。

「この上の広間にある巨大な門……あの中に、とんでもない“化け物”が潜んでいたのであります」

「えっ…!?」
「何やてぇ!?」
兵士の言葉で、落雷のような衝撃を受けるオリバー達。
しかし、彼は更に語り続けた。
「自分らは、賢者ソロン様と合同でこの遺跡内の捜索をしました。
ソロン様がいち早く此処の異変に気付かれたのであります。
そして、どうにかこの厄介な術に慣れ…ようやく此所まで足を進め、ソロン様の御令嬢様を発見致しました」
「じゃあ…マルはこの奥に居るんですね!?」
オリバーが興奮気味に問うや、厳しい表情を浮かべる兵士。
「…ですが、御令嬢様の前にあの化け物が現れ、手を出せぬ状態となった。
奴は測り知れぬ強さを誇り…ソロン様さえ苦戦を強いられて、我々はこのように戦えぬ状態…。
その中、ソロン様は自分らに一旦退けと仰いました。
最初、一介の兵士たる自分らは拒んだのでありますが…。
“アナタ達は国を守護するために生きねばならない、娘のことは私に任せて欲しい”
と諭され、不承不承ながら戦線離脱したのであります…」
語り終えると、その身が細かく震え始めた。
「……厚かましいのは充分に承知しております…。
どうか、ソロン様と御令嬢様をお救い下さいっ‼
情けないことに、自分らはソロン様の力になれぬのであります…!」
力不足への無念で、彼らの拳まで震える。
どれだけ悔しいことか、痛々しい程オリバー達に伝わった。
「…分かりました、後は僕達に任せて下さい。
ソロンさんも…僕達の仲間のマルも、絶対に助けます!」
「せや…そのために此所まで苦労したんやからなっ!」
勢いづくオリバーとシズク。
彼らから兵士達に目を移し、ナシウスは静かに頷いた。
「本当に、ありがとう……アナタ達のご健闘を、陰ながらお祈りするでありますっ!」
魔法で彼らの傷を癒やすと、オリバー達は広間の方向を向いた。
兵士達の敬礼に見送られ、広間に戻る。

「……これ、マルに渡さないとね」
微笑みつつ、ハープを拾うオリバー。
次に門を見上げると、他二人の方へ振り返った。

「じゃあ…行こう、皆」

かくして重い門を開く一行。
その先には…―――


「……?感覚が元に戻った…」
「おおっ、ホンマや!
やっとまともに動けるわぁ~…」
門を潜った途端、どういう訳か全ての感覚異常が治まった。
此処に居るらしい魔物のため、術者が意図して仕掛けたのだろう。

「うっ…ぐ、クソ……」
「ソロンさんっ!?」

中に広がるのは、更に円形の広間。
その手前の通路の手すりに、大柄な色黒の男性…ソロンが身をもたれさせていた。
オリバー達が慌てて近付くと、左腕を抑えて呻いているのが分かる。
その部位は赤みを帯びて、ほのかに煙を吐き震えていた。
更に、全身の所々で同じ症状が見られる。
「オ、オリバー…!?
……そして、そこに居るのは…まさか―――」
まずオリバーを見て、次はナシウスの姿に驚くソロン。
「…初めまして、賢者ソロンさん。
僕はナシウスと言って……少し説明に困るけど…簡単に言えば、ジャボーの心の一部が具現化した存在です」

ナシウスとソロンが対面するのは初のことだ。
世界を飛び回ることの多いナシウスだが、賢者や国王と直接会う機会はさほど無い。
そう言った地位の者とは…世界規模の罪を負うジャボーが、贖罪のために接することが多くなった。

「成る程…そうだったのか……。
…あまりに彼と似ていて驚いたよ…」
「まぁ、アイツの別人格みたいな者ですから」
それ故、ジャボーと勘違いされることがしばしばある。

「ところで…君達が何故此処に……?」
「勿論、マルを助けに来たんです!」
ソロンの問いに即答するオリバー。
次に、彼の火傷を見て続けた。
「ソロンさんのことも兵士さん達に頼まれて……この火傷、此処に居る魔物と戦って出来たんですよね?
今、僕が治しま―――」
「私のことなど良いっ…!」
“ヒールオール”のルーンを書きかけると、ソロンが叱声を発する。
「えっ…でも…!」
「な、何でやっ!?相当酷い火傷やぞ!」
「本当にすまないが…回復した所で、君達の力になれそうもない。
ならば君達の魔力…どうか“あの子”を止めるために使って欲しい。
そして……一刻も早くマルを解放してやってくれ…頼むからっ…!!」
「っ……ソロンさん…」
戸惑う一行に、彼は声を震わせ懇願した。
そんな中、ナシウスが冷静に疑問をぶつける。

「…“あの子”を“止める”……それはマルじゃなくて、此処に居る魔物のこと…でしょうか?」

「はぁ…!?何ゆーとんねんお前は…」
とんでもない推測に驚き、半ば呆れるシズク。
「……ああ、そうだ…」
「ほらな……て、ええぇっ!!?」
ソロン本人の肯定で、更に目を見開いた。
その理由も、彼の口から語られる。
「戦う中で分かった……あの魔物は、マルのイマージェンだと。
外見に面影は少なく、理性も一見皆無に見えるが…最奥の蛙像に乗ったマルを、庇いつつ戦っていたのだ…」
「そ、そんな…」
「………」
相当ショックを受けた様子のオリバー。
エビルナイトの件があってか、ナシウスも辛そうに沈黙する。
「証拠として、首にマルと同じ首輪がある…あんな姿になったのも、それが原因だろう……。
おそらく、操られた自覚も無いまま、訪れる者全てを敵とし払い続けている。
…マルを慕う一途な心を、あのルーフめに逆利用されたのだ。
その心だけ残され、自ずとこの遺跡の番人に変わった…と、私は思う」
ソロンが語り終え、少しの間があった。
それを終わらせたのは…。

「ピッピッピピッ、ピュロロ~ピ~」

鳥の囀ずり…にしては、やけに音程やリズムが複雑な鳴き声。
「何や…けったいな鳴き方の鳥がおるなぁ…」
「…まずい!“あの子”が君達の存在に気付いたんだ!」
「何やてえぇっ!?」
シズクが、再びソロンの言葉に驚く。
「二人とも……本当にお出でなすったようだよ」
円形の広間を見るナシウス。
「あっ……」
「うはぁっ…!?」
釣られて、オリバーとシズクも同方向へ顔を向ける。
そして…彼らは直後に絶句した。

黒スーツを纏い、胸元にはリボンやフリルという派手な装飾を施した指揮者風の少女姿。
しかし、1本に束ねた髪は白く、腰辺りから巨大な魚の尾…それも白骨化したものを生やす。
更にスーツはノースリーブで、両腕は白く短い羽毛に覆われており、その手には杖とも指揮棒とも見える棒が収まる。
そして…トランペットのベルと鍵盤の付いた顔から、感情を伺い知ることは不可能。
以上が、マルのイマージェン…セバであった魔物の姿だ。

「アレが……セバ…なの!?」
「なんぼなんでも…変わりすぎとちゃう!?」
やっとのことで声を出す、オリバーとシズク。
「…どっちかと言えばマルに似てるような……。
まぁいい、落ち着かせて首輪を外すよ…エビルッ!」
ナシウスが7歩ほどセバに近付き、エビルナイトを呼び出した。
「我が剣を要するのですね。
なれば存分に振ろうか……いざ、推して参る!」
現れて早々、大剣を構えるエビルナイト。
「しゃーない…やるっきゃないで、オリバー!」
「そうだね…セバだって、早く助けなきゃ!」
ハープを石床に起き、オリバーも杖を構えた。
その目でセバを射貫きつつ、ソロンに一言こう告げる。
「ソロンさん、後のことは…僕らは任せて!」
こうして、オリバーとシズクもセバに近付く。
「…ああ……娘達を頼んだ…!」
ソロンの横目に映るは、少年の小さな背中。
しかし…不思議と、誰のものより頼もしかった。



「ピィリリリリリリ!」
危険信号のような鳴き声を発し、指揮棒を振るセバ。
掴み所の無い動きをさせ、その先端をオリバー達に向ける。
「……!」
彼らが警戒する瞬間、そこから5本の光線が飛び出した。
「うわっ……え?」
オリバーが避けきれずに当たってしまった…が、光自体は無害らしい。
彼は全くの無傷である。
しかしその直後……。
「オリバー、危ないっ!!」
真っ先に異変に気付いたナシウス。
「えっ……うん!」
大抵の者なら、訳が分からず戸惑ってしまうだろう。
しかし、オリバーは少年ながら激戦を重ねてきた。
とにかく危険なのだと判断し、すぐ従って光線から離れる。

直後、光線を伝って複数の電気球が流れた。

石床に接触すると同時に、それらは落雷のごとき轟音を出して弾ける。
球は欠片となり、周囲に飛散して刹那に消えた。
「のわあぁっ!?」
そして、今度はシズクに脅威が迫る。
彼が偶然居た、光線の根元付近…そこは球が弾ける部分なので、飛散した欠片の密度が最も大きい。
「か、雷は苦手やねぇん!…せぇいっ!!」
掛け声と共に、シズクが瞬間移動した。

「ふぅ~……危なかったわぁ…」
「良かった…流石に駄目かと思ったよ」
移動先は、ナシウスの足元。
無傷の彼に安堵するナシウスが、今度は驚きの表情を見せた。
「君、ジャボーみたいなこと出来るんだな……心の具合も見えるし」
「いわゆる妖精パワーっちゅーやっちゃ。
…しかし、その発想はあらへんかったわ…。
言っとくが……タマタマのグーゼンやからな?」
こんな評価を受ける彼は半ば誇らしく、半ば困惑といった様子。

これまで、シズクは“ヌケガラビト”の心を見て、失った“心のカケラ”を特定したりした。
探索中オリバー達と離れた時も、“瞬間移動”で追い付いた。
それは、確かにジャボーの“読心”や“瞬間移動”と似ている。
しかし…一体誰が、“妖精”と“漆黒の魔導士”を結び付けるだろうか。
ジャボーと近しい、ナシウスならではの発想と言えよう。

「ねぇ、ナシウス…どうして、あの光線が危険だって分かったの?」
オリバーも、一旦ナシウスの元へ駆け寄る。
「ほんの一瞬、光線に電気が走ってるのが見えたんだ。
…おそらく、ソロンさんの火傷もあの攻撃によるものだね」
ナシウスは、セバの様子を伺いつつ説明した。
そして、他三人に一つの指示を下す。
「とにかく、指揮棒が指す所から離れよう…アレに当たれば、電撃を食らったも同然だ」
光線が出てから、電気球が来るまでの早さはまさに一瞬。
先刻は、ナシウスの忠告あって避けられたが…この速度の電気球を、毎回避けるのは難しい。
だが、光線は指揮棒の先端から出るため、指揮棒からその方向を予測するのは容易である。

「ピューピッピッピロロロ~」
またも、セバが指揮棒で彼らを指す。
全員その場から離れる…が、エビルナイトは更なる行動を始めていた。
セバの死角へ回り込み、大剣を構えて特攻する。
彼女がそれに気付き、慌てて光線の向きを変えんとした。
「遅い」
間に合わず…巨大な刃が、その背を斬り裂く。
「ピギィッ…!」
痛みに怯み、膝をつくセバ。
集中力が切れたか、光線も同時に消えた。
「エビル…」
エビルナイトの行為は、戦術として非常に良いもの。
しかし、背中を赤く染めたセバを見ると…やはり辛い。
「剣技を主とする私なら、死角から攻めるも容易い…。
アナタ達が手を出せぬ内は、私が隙を狙いましょう」
そんな主達の心境を読んでか、淡々とした説明の後、彼はこう付け足す。
「…仲間を傷付ける、それで胸が痛まぬ訳では無い。
ですが…私の時と異なり、此奴には主への想いがある。
だから本気の戦いに身を投じた…なればこそ、こちらも本気を見せるべきだと思うのです。
それが…今此奴に払える、唯一の敬意ではないかと…」
「ピュウ…ギギッ……」
セバが、よろめいて立ち上がり始めた。
それを見るや、彼女から離れるエビルナイト。

「我々がかけるべき情けは…“意志と生命の尊重”。
それに限ると考えました」
そう言って、再び大剣を構えた。

「……そっか…ありがとう、エビル。
これでやっと…踏ん切りが付けられそうだ」
暴走したエビルナイトの件で、本来仲間である者との戦闘もやむを得ない…と、充分理解したつもりでいた。
オリバーにも、それを理解させようとした。
…だが、これだけでは感情を押し殺せない。
ナシウスにとって、エビルナイトの迷いなき助言はありがたかった。
「じゃあ…こっちも行こうか!」
気持ちを新たに、蒼炎の塊を上空へ打ち上げる。
それは空中で弾け、雨粒となってセバの頭上に降り注いだ。
「ギュッ…ピ……」
これで、セバの動きが大幅に妨げられる。

「よー分からんが、半端な情けは要らんっちゅーことやな!」
「そう、だよね……。
このままじゃ、セバはずっと救われないんだ…ルッチ!」
シズクと共に、オリバーも決意を固めた。
そして、自身のイマージェンであるルッチを呼び出す。
「ようやく俺の出番かい?
今か今かと待ちわびてたんだからなっ!」
籠から現れたのは…どこかオリバーに似た、剣士風のイマージェン。
彼が、今はガルッチに進化したルッチである。
その口調から、相当な自信が伺えた。
「セバが光線を出すとき、僕達は手を出せないから―――」
「エビルナイトの援護、だな?
大丈夫大丈夫…籠ん中から見てたし、全っ部分かるって!」
「…うん、頼んだよ!」
主であるオリバーが、ルッチのペースに飲まれてしまう。
ルッチが自信家で強気ゆえ、こんなことはしょっちゅう起きる。
そして、ルッチは早速剣を構えた。

「お前に此奴を斬れるのか…?」
疑問を投げかけるエビルナイト。
口調は冷淡だが、彼なりにルッチを案じているのだ。
しかし…。
「さあねぇ?あとで謝んなきゃとは思ってるよ」
当のルッチは、それを軽く受け流す。
「戯けたことを…」
少し呆れた様子で、エビルナイトが呟いた。
「…俺は何もふざけてねーぜ。
これでもなぁ、今の状況に腸煮え滾ってんだ」
それを耳で拾ったルッチが、一変して真剣な口調で返す。
「……なれば良し」
これには、エビルナイトも納得した。

「ピギュッ……ピロッピピィイッ!!」
炎雨の中、セバは怒りを鳴き声に表す。
そして指揮棒から光線を出す…が、今度は三方向に分岐していた。
1本は正面、残り2本は彼女を挟んでその背後辺りに伸びている。
これにより、光線を避けつつ死角を突くのは困難に。
一行がそれらを避けたは良いものの、剣士達は動きを封じられた。
おまけに、鳴き声のリズムや音階に合わせ、電気球が流される。
「やってくれるな…だが―――」
彼らは盾を構え、やや強引に通り抜けた。
「くっ……我らの盾は…魔にも耐えるっ!」
「ちいぃっと…痛えけどなあぁっ!」
二人が持つ盾の物理耐性は勿論…魔法耐性も不足がない。
ただし、完璧に防げる訳ではないのだが。
そして…。
「ッ……ピイイィッ!!」
セバの身体を、2つの刃が斬り裂いた。
更に弱った彼女は、力なくその場に崩れる。
「…私も…無謀な真似を……したもの、だ…」
「オリバー、魔法…出すなら、今の…内だ……ぜ」
連鎖するように、エビルナイトとルッチも崩れた。
少量とは言え電撃を受け、運悪く麻痺したらしい。
「ルッチ…エビルナイト……!」
二人を大いに案じるオリバー。
「分かった……僕がやる!」
しかし、彼らが作ってくれたチャンスを無断に出来ない。
オリバーは、光魔法“グラディオン”のルーンを描き始める。
その強大な光が、セバを救うことを願って―――

「ピギィアーーーーーーーーーーッッ!!!!」

しかしその魔法は中断される。
最後の抵抗だろう…セバが腹の底から声を響かせ、この場の空気を振動させた。
「んなっ…!!」
「ひいぃ、やかましいわあぁっ!!」
鼓膜を破壊せんばかりの絶叫に、全員が顔を歪める。
この直後、激しい吹雪が発生した。
一瞬にして広間を白く染め、オリバー達の体力を削り取っていく。
「ぐっ…うぅっ……」
立つのがやっとな状態で、最早周囲の確認すら出来ない。
その中、オリバーは吹雪に抗い、再びルーンを描こうと試みる。
幸い、自らが持つ杖の先なら見られそうだ。
が…強風により、腕にかなりの圧力がかかった。
「負けるっ……訳に…行かないんだぁ…!!」
それにも抗い、何とかルーンを描く彼。
腕にかなりの力を込め、歪な線だが描き切ってみせた。
これで魔法が発動し、眩い光が真っ直ぐセバに向かい飛んでいく。
やがて、光はある地点で弾け消えた。
「ピギャアアァァ……」
セバに見事当たったのだ。
遂に彼女は気を失い、同時に吹雪も止む。



「や、やったんか……?」
「おそらく…」
シズクとナシウスが、よろめきながらセバに近付く。
気絶したことに間違いはない…が、まだ姿は戻っていない。
「姿がそのまま…?何故なんだ……」
首を傾げるナシウス。
「ふぅ~……」
その時、疲労にまみれたオリバーのため息が聞こえた。
エビルナイトとルッチも、麻痺が治ったようで、ゆっくりと立ち上がる。
彼らからも、当然強い疲労が伺えた。
「…お前ら、ようやったわ」
彼らを労うように、シズクが笑って言う。
「そうだな…皆お疲れ様」
ナシウスも、ひとまず安心して微笑んだ。
同時に、まず自分達やソロンの傷を癒やさねば、と考えた。

「ありがとう…君達には感謝もしきれない」
「いえ…貴方こそ、娘達のために奮闘したんでしょう?
その意志だけでも立派なものだと思いますよ」
仲間や自分、そしてセバの傷を癒やし、最後にソロンを癒やすナシウス。
その時、静かな感謝の言葉を貰う。
だが…ソロンも娘達を救うため、命懸けで戦った。
それは讃えるべき行為だと、彼は素直に感じる。
「おし、これで全員大丈夫やな。
ほんでナシウス、ぼちぼちセバの心癒したったらどや?」
背中にシズクの声を受けた。
反射的に振り向き、うつ伏せのまま微動だにしないセバに目を移す。
「うん、その前に…ちょっと心を診させて」
次に、セバのすぐ側まで近付く。
それから、しゃがんで彼女を仰向けにした後、胸部へ手を翳す。
この後は無言でそこを見つめた。
これが“心を診ている”状態なのは、周囲の者にも何となく伝わる。
そのためか、この間だけ広間に静寂が訪れた。
「成る程な……」
割と早く終わるらしい…ものの数秒で、伸ばした手を引っ込めるナシウス。
一言呟くと、今度は周囲に聞かせるように言った。
「…今の状態じゃ、この子の心は癒やせない。
心を癒やすには…相手側の受け入れが肝心なんだ。
だけど今のセバは、周り全てを敵と見なしてるから…確実に拒絶されて、成り立たなくなる」
これを聞き、他の者達が眉を潜める。
「そんな…じゃあ、一体どうすれば……」
「せや…どうにか出来へんのか!?」
シズクの質問に、少し考えた後彼は返答した。
「エビルの場合、強制的に元ある自我を引き出した。
普段のエビルにとって、印象深い言葉をぶつけてね。
…でも、アレは僕が主だから成功したんだ。
“言葉”となれば、他人が言っても効果は無いと思う。
だから、そうだな…この子にとって、何でも良いから印象深い“物”を見せたらどうかな」
「印象深い“物”って、んなモンどこに……あ、あったわ!」
怪訝そうに辺りを見回すシズク。
この目にある“物”が留まり、彼は跳ねながらそれを指差す。
「 見てみぃ、戦う前に置いたハープや!
アレを使えばイケるかもしれんっ!」
オリバーが拾い、戦闘前ソロンの側に置いたハープ。
セバの主であるマルが使う“物”なので、確かに効果はありそうだ。
「これだね!」
オリバーがそれを取りに行き、再び拾ってセバに近寄る。
「…でも、これをどうすれば良いんだろ?」
しかし、この後の行動に迷った様子。

「決まっとるやん…ソイツを弾くんや」

「えっ…僕が!?」
すかさず入ったシズクの助言に戸惑う。
「せや。楽器で印象に残るっちゅーたら、そら“音”がいっちゃんやろ。
とにかくソイツの“音”を聴かせたれ」
「だけど…僕、ハープなんて弾けないよ?
そもそも楽器自体あんまり……」
学校の授業以外で、彼が楽器に触れることはほぼ無い。
その上、教科における音楽は…お世辞にも得意とは言えなかった。
「けど、学校で多少楽器に触れとるやん?
俺達はそれ以上に楽器慣れしとらんぞ。
…こん中で、まともに楽器使える奴が居ると思うか?」
「……ソ、ソロンさんは…?」
「マルの楽器好きは、私譲りじゃないんだ…すまない……」
「……………」
唯一の希望を断たれ、沈黙するオリバー。
シズクが、肩に置く素振りで彼の膝下に手を置き、慰めた。
「何も、マルほど上手く弾けとは言わん。
“音”を聴かせんのが目的やからな。
出来れば綺麗な音色のが効果あるんやろが…ま、その辺はしゃーない。
適当でええんやで、適当」
「…分かったよ、しょうがないなぁ……」
ふて腐れた様子で、オリバーはハープの弦に指を置く。
弦ごとの音階や弾くコツなど知らないので、弦を絡めた指を強く引く。
「こう…かな?」
更に、何本もの弦を5本の指で絡め引っ張る。
それで少し慣れたか、徐々に音を繋げていった。

しかし、その音色は……。

「ア、アレッ…?
何やコレ、ハープってこんな音出るんか!?」
「……」
シズクが戸惑い、ソロンは僅かに顔を歪めた。

今この空間は、ハープの美しい音色……ではなく、弦が切れそうなほど張って乾いた音、でたらめに組合わさった繋がりの無い音色…それらが生み出す不協和音で満たされた。
「適当っちゅーたが……コイツは…酷い、酷すぎる…!」
呻きに近い声を出し、思わず耳を塞ぐシズク。
「慣れないなりに…懸命に頑張ってくれてるんだ…」
一方ソロンは、オリバーに失礼と思ったか必死に耐えた。
この言葉は、自分自身に言い聞かせているらしい。

しかし、残る3人は…。

「…うん、全然下手じゃない!
むしろ、個性が溢れてて凄く良いと思うよ!」
心底気に入り、賞賛するナシウス。
「ええ…これには私も惹かれます……」
しみじみと聞き入るエビルナイト。
「音楽とか全っ然分かんねーけど、俺はこっちも好きだぜ」
マルの演奏とは違う魅力を見出だすルッチ。
3人とも好んで聴いていた。

「っ………!!?」
彼らの反応を見て、愕然とするシズク。
文字通り開いた口が塞がらない。
「……お、お前ら…聴覚トチ狂っとるんかぁっ!?」
あまりの衝撃で、得意の突っ込みが著しく遅れた。
そんなシズクを、3人が不思議そうに見る。
「だって…ハープは音自体綺麗だから、ちょっとリズムや音が乱れても気にならないよ?」
加えてナシウスのこの言葉。
今流れる不協和音の乱れを、“ちょっと”と評したのだ。
流石に呆れ果て…シズクはあることを思い出す。
「…せやった……元を辿ればコイツら…」

オリバーは、元々ジャボーと魂を共有していた。
ルッチもそんな彼の心から生まれたイマージェン。
ジャボー自身の心からはエビルナイトが生まれ、ナシウスに至っては彼の心の一部だ。
つまり…彼らの美的感覚はジャボーと類似している。
彼の魔法で改装されたナナシ城も、外観から内部に至るまで奇怪な形状や色合いを取っていた。
そして…美術面や音楽面に関し、理解に苦しむ感覚を持つようになったのだろう。

「それに、結構効いてるみたいだし」
そんなことを考えたシズクに、ナシウスが更に話す。
彼は、同時にセバを指差していた。
「…何やて?」
セバの方を見るシズク。
「ピギャアッ…ピッピギィ……ピイイィッ!!」
気絶した彼女は、不協和音に起こされ悶絶していた。
「ありゃ…音の酷さに苦しんどるんとちゃう?」
彼は苦笑しながら言った。
「いや、そんなことないって… さっきまた診たから。
エビルと同じさ……激しい敵意と、自我の衝突で苦しんでる」
「何…やとっ……!?」
再びシズクは度肝を抜かれる。
「マルのハープやったら…何でもええん、か…!?」
信じられない、といった様子だ。

そう…今のセバには、演奏の巧拙など関係ない。
主を彷彿とさせる“音”の連鎖は、確実に彼女の自我を掘り起こしていた。

「オリバー、あともう少しだよ!」
「う、うん!」
ナシウスが励ますと、オリバーも応じた。
そして、一層張り切り不協和音を響かせる。
「うぐっ…こ、これも……セバの、ため…」
耳を塞ぐ手を、更に力強くするシズク。
ナシウスは彼を見る…が、いまいちその心境を理解出来ない。
しかし言葉は汲み取れた。
「そうさ…セバにとって、これは自我と敵意の戦い。
オリバーの奏でる“音”が、自我を引き出すのは間違いないんだ」
この不協和音が止むのは、そう遠くない出来事であった。



「うぅ…ん…」

「お、起きたで!」
目覚めたセバの耳に、まずシズクの声が入る。
「おう、まだどっか痛むか?
そんなら俺らがぶった斬ったせいだ、すまん」
今度は、飄々としたルッチの声。
何故か、自分に謝罪の言葉を述べてきた。
特にこれと言った苦痛はないが…。
「謝罪ぐらい真剣にやればどうだ…」
「ん~?俺は何もふざけちゃいねぇぜ」
「…まぁ良い…もし痛む箇所があるなら、誠に申し訳ない。
お前を連れ戻すには、手荒だがこうする他なかった」
ルッチと話した後、こちらに謝罪するエビルナイトの声。
次々に変わる声を聞く内、意識と視界が鮮明化してきた。
そして、驚きがじわじわと沸き上がり…。

「ふぇっっ!?」

突然素っ頓狂な声を出し、勢いよく上半身を持ち上げる。
「えっと…マルが急に襲われて、パパとボクも一緒に戦って…でも負けて、此処に連れて来られて……その後、どうしたんだっけっ!?」
早口で記憶を呼び起こし、目を見開いて周囲を見回すと…これまた目を丸くしたオリバー、シズク、エビルナイト、そしてジャボー…に似た青年が自分を囲っていた。
一歩引き、ソロンも立ってこちらを見ている。

彼女の言う“パパ”は彼を差す。
マルと共に過ごしてきたので、彼を父親のように慕っており、また彼もセバを娘のように想っている。

それにしても、今の状況が全く理解出来ない。
酷く頭が混乱ている。

「どうなってるのさコレェッ!?」

セバは叫ぶしかなかった。



「……成る程、ボクはアイツに利用されてたんだ。
そりゃあますます許せないよ!
あ、あと…こっちこそ傷付けてごめんなさい…。
皆やパパに攻撃してたなんて……」
オリバー達がセバに説明したことは、山ほどある。
何が起きたかは勿論、ナシウスのことまで理解させた。
こうして話を終えると、今度は彼女が謝罪する。
やはり、仲間や肉親のような存在を傷付けた罪悪感は大きい。
「いや、気にしなくて大丈夫…これだけはしょうがないよ」
優しく笑いかけるオリバー。
更に彼は続けた。
「それに…君はマルを護るために戦ってたんだ。
あんな状態になってまで…」
「…現に、その時の君はマルに似てた。
その理由、今分かった気がする」
言葉をナシウスが引き継ぐ。
「…え?」
彼が出した話題で、目が点になるセバ。
「おそらく、マルへの想いだけ残されたからだ。
一途に想っているから、外見にまで表れた。
…これだけで、君の気持ちは分かるから……」
「っ……」
しかし、また優しい笑顔を見せられ動揺する。
極めつけにソロンも言葉をかけた。
「私にとって…お前も娘のようなものだ。
…親には、子供の無事が何よりの幸せだよ」
「ふぁっ…うぅ…パパァ~……」
彼の笑顔を見た時、とうとう泣き出してしまう。
ほんの少しの間だが、広間全体が暖かい空気に包まれた。

「……さて、もう一人の娘はんも助けたろか!」
ややあって、シズクが笑いながら言う。
「そうだね…大丈夫、今度はすぐ助けられる」
同じく笑って返すナシウス。

セバの場合、操られたのでまず自我を引き出したが…兵士達やソロンの話からして、マルは操られてない。
故に、“ハートフルメディ”への拒絶もしない筈。

「ようやくマルを起こせるよ…」
ナシウスが言うと、全員がマルを乗せた蛙像に近付いた。
彼はマルの胸部に手を翳し、念のため心を診る。
拒絶の可能性が無いのを確認すると、翳した手のひらから淡い光を出す。
眩しい訳でもなく、淡い故の暖かみを感じられ…見るだけで気持ちが安らぐ光だった。
尚、この作業にかかる時間は大体数十秒。
酷く傷付いている場合は数分、と言ったところだ。




「うっ…うぅ~ん……」

蛙像の上で眠るマルが、ゆっくりと起き上がった。
長いこと気絶したのだろう、非常に眠そうだ。

「マル…!やった、マルも起きたぁっ!」
「うわっ!?…セ、セバ…?」
彼女の声を聞くや、セバが勢い良く抱き付く。
何事かと驚くマルに、セバが涙声で話した。
「あのねっ…マルが起きないからっ、皆頑張ったんだよぉ!
兵隊さんとっ、パパとっ…オリバー達がぁ!
大変な思いしてぇ、ボクがそんな思いさせちゃってぇ…それからっ…!」
「えっ、兵隊さん?パパとオリバー達?
とりあえず落ち着いてよ、セバ」
戸惑いながら宥めるマル。
「とにかくっ、皆がマルを一生懸命助けたんだよおぉ!!」
「皆が…私を……それって…!」
セバが叫ぶと、マルも何か気付いた。
「まぁま、お前も落ち着いたれ…改めて説明したる」
足下から、シズクの声が聞こえる。
「シズク!?…ってことは……」
「うん、僕らも居るよ」
オリバーの声が、前方から聞こえた。
思わず、セバを見て俯き加減だった頭を上げると…そこには仲間達と、父の姿があった。
「皆……パパ…」
目を丸くしたマルと、微笑むソロンの視線が重なる。
「待ってたぞ……マル。
その子の言ったことは本当だ…皆、お前のために頑張ってくれたんだよ」



「…そうだったんだ……本当にありがとう、皆…パパ」
泣き笑いのような表情のマル。
オリバー達から説明を受け、皆に助けられ今に至ると知ったのだ。
「……それで、まだ私と同じ目に合ってるんだよね。
ジャイロとラース、そしてレイナスは…。
ジャボーだって…無事って訳じゃないんでしょ?」
そして、他に苦しむ仲間達がいることも。
ジャボーのことも、ナシウスとエビルナイトが居る理由を聞く中知った。
「他の3人は、君と同じように助けられるけど…ジャボーに関しては難しいんだ。
アイツが城ごとルーフを閉じ込めてるから、外から誰も入れない……昨夜に見て分かったよ。
つまり、どうしてもジャボーは最後になる…なってしまうんだ。
助けられるのは…アイツが倒れてからさ……」
説明するナシウスは、淡々と語ることを心がけた。
心がけはしたが…語ること自体が苦痛である。
故に、彼の心情が全員に伝わってしまった。
「じゃあさ、早くジャイロ達を助けよ?
私も手伝うから……それなら、ジャボーの所にも早く行ってあげられるよ」
当然、そこにはマルも含まれる。
「…えっ……君が…?」
「うんっ!」
これまで、ほぼ励ます立場だったナシウス。
しかし、今度は明るい笑顔に励まされた。
「セバ、一緒に来てもらっても良い?」
「勿論だよっ!
マルや皆と一緒で、凄く嬉しい!」
彼女がセバに頼むと、セバも元気良く返事した。
「…行ってもいいかな、パパ?」
次は、ソロンに確認を取る。

今回の戦いは、とてつもなく危険なのだが…それは、一度ルーフと戦った彼女も実感していた。
それでも、苦しむ仲間達を放ってはおけない。

「…ああ、好きなようにやってみなさい。
ただし……無事に帰って来るんだぞ」
ソロンも、娘を案じていないのではなく…ただ、その意志を大切にしてあげたかった。
それに―――

「ありがとうパパ!
…心配しないでよ、だって皆が一緒なんだから!」

「……そうだな…」
父の思うことは、娘と一致している。
何より…周りを照らすこの笑顔には、勝てそうもない。

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~END~












ついでにおまけ。((ぅえ



可愛い女の子かと思ったか?


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残念、私だ。