花柵わわわの二ノ国箱庭

主に二ノ国の二次創作をやっております。たまに別ジャンル・オリキャラあり。動物も好き。 Twitter始めました→https://mobile.twitter.com/funnydimension

【二ノ国小説】part7「真夜中の暗躍者二名」 【※ks&グロ注意】

皆さんこんばんちは(*・ω・)ノ

色々あってもう卒業間近です。
あと数日でこちらは卒業式となりますが…えっらい緊張する(´・ω・`)
閲覧者の中に学生の方がいらっしゃったら、お互い悔いのない様過ごしましょうね(゚∀゚)

暴走するエビルナイトを解放し、旅の仲間に加えたナシウス。
そんな彼は、“首輪の外し方が分かったかもしれない”と言い出すが…。

では今回も…ゆっくりしていってね
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二ノ国 magical another world

天地照光~金煌なる光の鳳凰~





「まず、操られたエビルにあの首輪が付いていた。
その後、僕がエビルの心を診てみたら、かなり崩壊していた…」

本題の前置きとして、これまでの首輪に関する出来事を語るナシウス。
マル達を救えるかもしない、ということでオリバーら三人は静かに頷き、真剣に彼の話を聞いていた。
「一方二ノ国では、ボーグの兄弟がルーフと戦う最中、突然倒れた。
そして、二人の首には例の首輪があった……これらの点から推測出来ることが、いくつかあるよ」
「何や…何や!?」
シズクが思わず身を乗り出す。
一刻も早く先を聞きたくなり、催促したのだ。
「エビルの首輪は、おそらく“心の回復”が原因で外れたんだ。
先に傷を癒したけど、それでも外れなかったし」
それもあってか、ナシウスは早く話を進める。
「…逆に言うと、ボーグの兄弟が倒れた原因は“心の崩壊”だったんじゃないかと思う」
「……!」
“心の崩壊”という言葉で、目を見開く他三人。
「それじゃあ、シェリーの病気って…」
オリバーが思い出した様に言った。
何か異様だと感じたが、マルに原因があるのはほぼ間違いない。
「マルと魂を共有する子の名前だね…。
多分…マルが“心の崩壊”を起こしたことで、その子の心にも少なからず影響が及んでいる。
一応、その子の心も癒せるけど……原因のマルをどうにかしないと、すぐ再発するよ」
「そっか…」
「言い方を変えれば…首輪を外す条件が“心の回復”なのは、ほぼ確実ってことさ。
それなら、僕の力で助けられる」
憂いを帯びる彼の表情を見て、ナシウスは慌てて付け足す。
するとその顔は瞬時に晴れた。
それから急に表情を引き締め、直線の眼差しをナシウスに飛ばす。
「……こうして事情を知ると、やっぱり大人しくなんてしてられない」
案の定、二ノ国へ行きたい様子のオリバー。
「オリバー…」
彼の瞳を見つめ、ナシウスは眉をひそめた。
オリバーもこの反応は覚悟していたようで、一切視線を逸らさない。
「“粛清”された皆は必死に戦った。
その皆を、二ノ国の人達が一生懸命探してるのに……僕だけ此処で何もしないなんて」
母による教育の賜物か、オリバーはお人好しなまでに心優しい。
仲間の危機を知り、大人しくする筈もなかった。
ナシウスが恐れるのはそれだったのだが…。
「…確かに、事情も話さないのは過保護だったよ。
でも、君を二ノ国へ連れてく訳にいかない。
それだけは絶対……ジャボーに託されたんだ、君のことを…」
これだけはどうしても譲れない。
ジャボーの代わりに、オリバーを守ると決めたのだ。
「それに、君には本来の“居場所”がある。
ようやく取り戻した“日常”もある筈だ。
君自身が努力して、苦労の末やっとのことで掴んだ平穏を…何故、簡単に手放そうとする?」

そして、守りたいのは彼自身だけではなかった。

「それは…此処の皆も大事だけど……」
ナシウスの問いで、オリバーの顔に困惑の色が出る。
否定も出来ない言葉の連続は、酷く彼を惑わせた。
容赦ない言葉から察するに、本気で諦めさせるつもりだ。
故に、ナシウスは更なる言葉をぶつける。
「君にはもっと“居場所”を重んじて欲しい。
自分の選択一つで、あっという間に“居場所”が消えることだってあるんだから…」
「ナシウス…それって……」
その言葉から、彼自身の過去が薫った。
「とにかく、君にそんな思いをさせたくない。
……させてたまるか」

「ナシウス様…」
「…こりゃ、流石のシズク様も口挟めんわ」
二人の間に、エビルナイトやシズクが入る余地はない。
エビルナイトは深刻な表情を浮かべ、シズクはお手上げという様子で彼らの会話を聞いていた。
否、そうするより他がないのだ。
それだけ、今の空気は張り詰めている。

「…違う、違うよナシウス」

空気の流れを、またもオリバーが断つ。
「……?」
突然の否定に対し、怪訝な顔のナシウス。
一方オリバーの瞳には、強い光が蘇っていた。
「君の言う通り、ホットロイトが“僕の居場所”だと思うし…此処には平和な“日常”もある。
……でも、それはこの町だけじゃないんだ」
ナシウスの言うことは確かに正しい。
正しいのだが…彼自身が思い違いをしている。
二ノ国の皆だって、この町の皆と同じくらい大事なんだ。
だから…二ノ国も“僕の居場所”だと思う。
“ホットロイト”と”二ノ国”、両方合わさって“僕の居場所”になるんだよ」

純粋な少年の、率直で澄んだ主張。
それは、この場に再び静寂をもたらした。

「オリバー……よー言っとくれた…。
二ノ国”に案内した身として、俺は嬉しいでえぇ…!」
短い静寂の後で、シズクが嬉し涙を拭う。
突如涙ぐむ姿に、エビルナイトは僅かな驚きの気色を表す。
彼には認知しかねる話だが…ジャボーの呪いが解けたシズクは、“限りなく透き通った心”を持つオリバーに救いを求めた。
この時、母が死んで間もない上13年間“一ノ国”で育ったオリバーは、当然“そんな世界のこと知らない”と言い拒んでいた。
しかしそのオリバーが今、“二ノ国”を“居場所”と言ってくれている。
ここまでの過程を終始見たシズクには、静かで深い喜びをもたらす言葉だ。
「…そっか、成る程……。
それが君の意志なんだ…」
一方…恐ろしく穏やかな口調と笑顔のナシウス。
ようやく納得したらしい。


「そうだね、なら僕と君で戦ってみようか……」
───否、最後の手段に出たのだ。


「……え?」
瞬時に冷えた口調と笑顔。
オリバーは呆然とする他なかった。
「ナ…ナシウス様…!?」
「…何っでそーなるっっ!!?」
外野のシズクとエビルナイトも、納得していない。
「どっちの意志も譲れないなら…戦勝者の意志を尊重すれば良い。
…さぁ、君の杖を構えてみな。
今や陽も完全に落ちた……また外で戦おうじゃないか」
ナシウスの強い眼光からして、ほぼ確実に実行しそうだ。
「ちょっと待ってよ!
僕と君が戦うなんて、そんなことする必要は…!」
「いいや、それぐらい僕は本気なんだ。
君の意志を貫きたいなら、僕を打ち破ってみてよ」
慌てふためくオリバーの言葉を断つ彼。
オリバーは戸惑う様子で、ソファーの左斜め前の椅子に置いたバルゼノンを見る。

自分の意志を貫くため、ナシウスを倒すか。
ナシウスの意志を汲み取り、彼らに任せるか。
二つの選択肢が秤に掛けられ、少年の心が右往左往し始めた。
そうしてようやく導かれた、少年の答えは…。
「無理だよ、君と戦うなんて…できない……。
ここまでして、僕のことを守ろうとしてる君を傷付けるなんて…!」
「…ということは、つまり───」
「だけど、ここで諦める気もない!」
「っ…!?」
自己内で結論づけるナシウス。
その結論すらオリバーに否定された。

選択肢に戸惑う内、少年はある一つの考えに達していた。
そもそも、この“選択肢”自体ナシウスが与えたものに過ぎないではないか。
なら、自分の思考を彼一人の“選択肢”に当てはめる義務もない筈。
こうして出たのが、“選択肢”外の答えである。

「成る程、“選択肢に従わない”って選択をしたか。
まさしく“君自身の答え”だね」
これはしてやられた、と言わんばかりに笑うナシウス。
一見ただの我がままとも取れるオリバーの答えだが、要は“ナシウスと戦わずに二ノ国へ行きたい”ということなので、何も矛盾していない。
「……分かった、君の意志を尊重しよう。
大体、君を“守る”ために君と“戦う”って何か違う気がするし」
「何や、えらくあっさりしとんな。
本気やなかったんか?」
溜め息混じりに言う彼に、早速シズクが突っ込みを入れる。
するとナシウスは打って変わり、普段と変わらぬ様子で話した。
「“半分本気で半分冗談”…と言っとくよ。
もしオリバーが僕と戦う道を選んだら、戦っても最終的には二ノ国へ行かせる気でいた」
「はぁっ!?ほんならさっきまでの押し問答は何やったん!?」
更なる突っ込みにも、彼は平然と答える。
「だから、途中までは本気だったんだよ。
でも、オリバーがこの町と二ノ国をひっくるめて“自分の居場所”って言ったし…。
そこからちょっとオリバーを試したくなった。
それは理不尽な状況でも折れない意志か……僕と暴走したエビルの時のような、厳しく過酷な戦いに身を投じる“覚悟”があるか、てことをね。
つまり“半分本気で半分冗談”だったのさ」

「そ…そうだったんだ……」
「むむむ…言葉で問うより有効てか?
にしても何ちゅー心臓に悪いこっちゃ…」
「誠に息の延ぶことです…」
ナシウス以外の三人が、一斉に胸をなで下ろした。
「…ということは、このオリバーも連れて行くのですね?」
その中、エビルナイトが改めて確認を取る。
そこに、ナシウスはしっかりとした笑顔で応える。
「ああ…オリバーの意志や覚悟は充分伝わったから。
それに、同行しながらでも…戦いながらでも、僕と君で彼を守ることはできる」
「オイ…いっちゃんの重役を忘れとんぞ?」
不満げに頬を膨らませるシズク。
「ごめん、君だって立派な参謀だよね」
「…いや、そこまで仰々しいモンでもあらへんで?」
苦笑するナシウスの言葉に、シズクも苦笑で返した。

「ありがとう、ナシウス」
オリバーが、ナシウスに微笑みかけて話し出す。
「僕は、ちゃんと自分のことも考えて戦うから大丈夫。
…それに、“居場所”を守りたいから、僕も戦うんだ」
そして、思い出すように言葉を付け足した。
「…あっ、出かける前に色々準備があるから、ちょっと待ってて!」
言い終えた途端、リビングの端にある固定電話の前まで駆ける。
次に電話番号を入力すると、受話器を手に取った。
「もしもし、オリバーです…こんばんは。
すみませんが、マークはいますか?
…………はい、ありがとうございます!
……マーク、こんばんは。
こんな時間にごめん、明日の学校のことなんだけどさ………」
どうやら、電話の相手はマークらしい。
明日の通学は不可能なので、予め欠席することを知らせている。

二ノ国へ行く上で、通学は諦めなければならないのが常。
しかし、後日自分が休んだ日の授業内容や課題をマークや教師に細かく聞いているので、学力の遅れは無い。
彼も夢見る少年、夢に近付くための努力は惜しまないのだ。

「…一ノ国も色々と大変なんだね……」
「魔法にしろ科学にしろ、文化や技術が発展すりゃ面倒事も増えらぁな。
せやけどそれはお互い様、慣れたらこっちもおもろいで?」
電話で話し込む少年の背中を、同情を含んだ眼差しで見つめるナシウス。
そんな彼を、シズクが笑いつつ諭した。



ややあって、旅立つ準備を済ませたオリバー。
欠席の口実としてとっさに思い付いたのは、親戚に関する用事で家を空けるということ。
仮病では、シェリーにあらぬ疑いがかけられてしまうからだ。
それに、もしマークが見舞いへ来たとき家中の電気が消えてたら、当然不審に思われるだろう。
そんな訳で思いついたこの口実、マークも半信半疑ながら承知してくれた。

「…準備が出来たようだね、オリバー」
ナシウス達は、夜空の下…オリバー宅の庭の上に立ち、玄関の扉を開ける少年を見る。
「うん、待たせたね」
出てきたオリバーは、赤いマントをなびかせていた。
そう、これが“二ノ国”での彼の私服。
そして…右手にはバルゼノンが収まっている。
ナシウス達の所まで歩くと、彼が一言。
「じゃあ皆…行くよ」
これを合図に杖を動かすと、その動きに従って青白い光が空中に線を描く。
やがて、そこに“ゲート”のルーンが現れた。

ルーンとは、魔法を発生させるため、杖で描く必要のある紋章だ。
形は様々だが、全て二本の線で構成されているのが特徴である。
その種類は、二ノ国にある魔法の数だけ存在する。

「…久しぶりの、二ノ国に!」

“ゲート”は、“二ノ国”と“一ノ国”とを行き来するための魔法。
これにより、今オリバー達は次元を越えることとなった。
ようやく、二ノ国へ旅立つのだ。





~ニエルデ砂漠(ババナシア王国付近)~

「ふぅ~…やっぱ、次元移動は地上で安全にやるんが一番や!」
「…それってどういうこと?」

マルの祖国であるババナシア王国は、ミド大陸南部に広がるニエルデ砂漠の中心にある。
砂漠とは言え、オアシスや植物も少なからず存在し、この地域特産の果物ババナは、国名にもなる程ババナシア王国経済の支柱を担う。

オリバー達は、その国付近の砂漠へ飛ばされてきた。
着いた直後シズクが発した言葉に、オリバーは純粋な疑問を抱く。
「いやいや、あの…何でもな───」
「ナシウスの奴がなぁ、俺を地元から引っ張り出してごっつ速く上に飛んだんや!
でな、そのまんま空中で“ゲート”使うてんねん!
ほんで一ノ国来た直後に急降下飛び蹴りやぞ!?
さんざん“大妖精”とおだてた後にこの仕打ち、酷いと思わん!?
“上げて落とす”とはまさにコレやん!」
「あ、そうなんだ…アハハ、災難だったね」
「笑い事ちゃうっ!!」
何故か慌てるナシウスの言葉は、シズクの怒涛の言葉で打ち消された。
そんな彼に、オリバーは苦笑しか出来ない。
「緊急だから仕方なかったんだって……言いふらすなんてそっちも酷いよ、謝ったのに…」
「あん時の仕返しや、倍返しやっ!」
ナシウスがうなだれて弁解すると、シズクはしたり顔で応えた。
「……ところで、これからどうするつもりだ?
この地域はまだ日出っているが…」
ユーモラスな空気を、生真面目なエビルナイトが引き締める。

一ノ国のホットロイトは夜だが、地域ごとに差はあれどミド大陸には陽が昇っていた。
更に大まかに言うと、ミド大陸とその東北東のレカ大陸では昼夜が逆転しているのだ。
つまり、ボーグ帝国やナナシ城のあるレカ大陸の昼夜の方がホットロイトに近いとも言える。

「勿論、早速皆を探しに…」
「待て待て、慌てんな」
問われたオリバーの答えを、シズクが遮る。
「何で止めるのさ、シズク」
「考えてみ、お前は既に一ノ国で1日過ごしたやん?
そろそろ1日の疲れとか出てきてもええ頃やで」
怪訝な表情のオリバーに、丁寧に答えた彼。
「そんなことないよ、少しぐらい…」
反論するオリバーの口からあくびが出ると、彼は“ほらな”と言わんばかりの視線を飛ばす。
「…分かったよ、僕はちゃんと休むよ……」
視線が痛いのか、オリバーは頬を赤く染めた。
「それでよろしい。
ほんで、あとの黒いお二人も休んだらどや?」
今度はナシウスとエビルナイトを見るシズク。
対する二人は…。
「僕なら平気平気……」
「私は…人間以上には活動できると自負しているが」
「お前ら……今現在の顔に疲れが出とるぞ。
ナシウスにいたっちゃ笑顔が引きつってんねん。
というか…あんだけドタバタした後、二回も戦ったお前がいっちゃん疲れとるやろ?」
「……」
「………」
二人まとめて見事な突っ込みを食らった。
「……エビル、もう戻って良いよ。お疲れ…」
「御意…」
沈黙の後、渋々と命じるナシウス。
エビルナイトは素直に従い、光と化して彼の胸部に取り込まれた。

人間の心から生まれたイマージェンは、その人間の心に戻ることも可能だ。
オリバー達は育成カゴという物にイマージェン達を収めていたが…それを持たない者は、心から直接イマージェンを出し入れする。
エビルナイトはジャボーのイマージェンだが、ジャボーとその“心霊”ナシウスは同一人物と言っても過言ではないので、ナシウスが彼を従えることも出来るのだ。

「全くどいつもこいつも素直とちゃうわ…。
……口で言っても身体は正直なんやで?」
「…オリバーとエビルが居る時に、そういう冗談は止めて欲しいなぁ……」
「大丈夫大丈夫やって!
純粋無垢な少年とクッソ真面目な騎士にはなーんも伝わらん!」
苦笑するナシウスと、軽快に笑い飛ばすシズク。
「……?」
言葉通り純粋無垢な少年のオリバーは、二人の顔を見て首を傾げるばかりだ。
「ささ、んなトコでくっちゃべっとらんと宿屋行こうやっ!」
こうして、オリバー達は宿屋に泊まるためババナシアを目指した。




マタタビスパ入り口前~

「はぁ~…何という癒やし……」
「…ナシウス様」
「“風呂は魂の洗濯”とか聞くけど、ホントに魂が浄化されてるのかも…」
「ナシウス様…」
「風呂場自体にも何か癒される空気があるよねぇ…。
程良い湿気と暖気が心に染み入って…」
「…ナシウス様!」
「ハッ!?……ごめん、あまりにも心地良くて…つい風呂の魅力を語っちゃったよ」

二ノ国における宿屋と言えば、マタタビグループの経営するものが有名だ。
ババナシアの宿屋であるマタタビスパも、その一つである。
そこに泊まるオリバー達の疲労が想像以上だったか、部屋で休んだり入浴をしている内に陽が沈んだ。
入浴後、オリバーとシズクはすぐに寝入り…1時間余り仮眠をとったナシウス一人が外に出た。
それは勿論、何か用があってのことで、再びエビルナイトを呼び起こす程なのだが…。

「これから、色んな所を見て来ようと思うんだ。
僕らって、どっちかと言えば夜の方が活発になるからね…静かな夜の内に色々調べておきたい。
それで、君にはオリバー達を側で見守って欲しいんだ。
寝てる隙を、ルーフ達が狙わないとも限らないよ」
先程まで脱力していたナシウスだが、今は緊張感を持った様子で話している。
「御意…貴方と同様、疲労回復致しましたので、充分に務めを果たせます」
「なら良かった…じゃあ朝には戻るから、後をよろしくね!」
そう言い残して夜空に飛ぶナシウス。
彼を見送り、エビルナイトは“他の客を怯えさせることがないように”と考えつつ部屋に戻った。







「感じるな、“救世主”共の馬鹿みてぇに強い魔力を……てこたぁ、“俺の分身”が此処に導いた訳だ」

ミド大陸の南東に佇むナーケルナット遺跡。
月明かりもあって、うっすら悲壮感を漂わせたこの遺跡の屋根に、仮面の少年が座っていた。
彼もルーフのように欠けた輪を纏うが、それらは髪と同じ銀色。

一ノ国でオリバーを襲った銀髪少年は、彼に似せて造られた分身である。
服装を一ノ国のものに合わせたり、一ノ国の人間と同じ性質の身体にするなど細工を施した特別製だ。

「アレがやられんのぐらいは想定内…アイツらの実力もちったぁ測れたし、“救世主”をおびき寄せることも出来たし、まぁ結果オーライだな」

更に、自分と分身の視界を同一化することも可能。
自身の周囲が見えなくなるのが欠点だが、無人の安全地帯なら問題ない。
そして、分身とオリバー達の戦いは、直接彼の目に焼き付いたこととなる。
この分身は、“生み出す”も“消す”も本体である仮面少年の自由……言うなれば、彼に情報を提供するためのコピー人形だった。



「………」
仮面少年が気がかりそうにどこかを見る。
それは丁度、ナナシ城のある方角だ。

あの方角から、強大な“光”と“闇”の魔力を感じる。
“光”は言うまでもなく主のルーフ、“闇”は…“魔導士”だろう。
不思議なことに、“闇”の魔力が一向に途絶えないのだ。
そもそも“魔導士”の魔力は“女王”以下。
故に、“闇”の魔力は確実に減っていく。
なのに、決して途絶えることがない。
ルーフの“光”で追い詰められていながら、だ。
むしろ、精神的に追い詰められているのはルーフではないのか…という推測も容易い。
何故なら、他に巨大な“結界”の存在も感じる。
おそらく、ルーフは“結界”に閉じ込められていて…それは“魔導士”が倒れぬ限りどうしようもない代物なのだ。

一体、何をすればそんな戦況になるのか…。

負ける筈はないにしろ、ルーフのことが心配になってきた。



「…だったら…こっちも“罠”を増やしてやんぜ」
気持ちを切り替えると、右手から銀の輪を出現させた。
輪の空洞である部分に“鏡”の膜を形成すると、それを宙に浮かせ、鏡部分で月光を受け止めるように移動させる。
次に角度を調整すると、月光は鏡に反射して地上に送られた。

それだけなら普通の鏡と変わらないが…これは魔力の込められた特殊な鏡だ。

故に、反射光は魔力を帯びたものに変換される。
そして扇状となって地上に降り注ぎ、ナーケルナット遺跡前とその周辺を明確に区切った。
少し放置した後、仮面少年は鏡を手元に戻して消す。
「“救世主”様ご一行専用だ……さて、残り2ヵ所にも造ってくるかな…」
これで傍目には“見えない境界線”が造られた。
他所にもそれを設置しようと、仮面少年が朧影と化して瞬間移動する。

敵対する二人が、同時に明日へ備える夜であった。

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             ~END~