花柵わわわの二ノ国箱庭

主に二ノ国の二次創作をやっております。たまに別ジャンル・オリキャラあり。動物も好き。 Twitter始めました→https://mobile.twitter.com/funnydimension

【二ノ国小説】part16「転機」【※ks&グロ注意】

皆さんこんばんちは(*・ω・)ノ

毎年恒例とも言えるかもしれないインフルやノロウイルスの流行…様々な予防法がありますが、一番はやっぱりバランスの良い運動や食事で体力を付けることだと、個人的には思うのです。
※筆者は凄まじい運動音痴。体力もなけりゃ握力もありゃしねぇ矛盾。

はい、この小説にはグロ表現・鬱描写が含まれておりますので閲覧の際は気を付けて下さい。

完璧だった筈の壁を崩され動じるジャボーさん。
三騎士はそんな彼に何をもたらすか。

では今回も…ゆっくりしていってね! ───────────────────────

二ノ国 magical another world

精神融裂~モノクローム絶対神




「私の…真の目的……?」

ジャボーはサイベルの言葉で更に追い詰められた。
正体を見破られることすら想定外だったというのに、真の目的までも…。
「お前がアルテナを襲撃したのは、単なる復讐がためではなく……我々の戦意喪失を狙うためだろう?」
一方サイベルは彼を真っ直ぐに見つめる。
これにより、一層ジャボーの精神が張り詰めた。

「…戦力となる者達へ、仲間や民が殺されゆく幻覚を見せ、更に腕や脚を負傷させて戦闘不能状態へ陥れる。
この手段で強い精神的ショックを与え……生かさず殺さずの“絶望の連鎖”を生み出した訳か」

「成る程……では、先程の少女の幻も…」
「これなら兵士も上官も…そして手駒を全て失った大臣や王も、戦うなどという気は今後一切起こさぬだろう……」
ハインとシングはサイベルの推測に納得したようだった。

圧倒的脅威と、それによりいとも容易く消える仲間の命…その幻が与えし絶望は何よりも深い。
回復魔法で身体を癒やしても、その絶望は消えないだろう。

更に語るサイベル。
「……真の絶望を知るお前だから思い付いたのだろうな。
たった一つの願い…それは今も────」
「黙れぇっ!!」
「!」

突如ジャボーは彼の言葉を遮った。
それから、うつむきつつ声を震わせる。
「…何度言えば分かる……“ナシウス”は最早どこにも居ない!
無能な弱者は強者の手で消え去るのみだ!」
明らかに様子の変わったジャボー。
それは、サイベルが彼の心に触れたことを意味していた。
「……お前達のように“痛み”を知らぬ強者が…
分かったようなことを言うな!!」
怒鳴りつつ“闇の氷結”を発動させる。

サイベルは一瞬、平手打ちされたかのような表情を浮かべたが…兜に隠れていたためジャボーにも誰にも知られなかった。

「それもまた…我らを絶望させるための言葉か?」
そしてサイベル含む三騎士は、炎を纏った剣で地面を突き刺し、氷が柱となる前に溶かす。

これより百年程先…すなわち今では一瞬にして氷の柱を突出させているが、同じ魔法でもこの時はそれ程素早く出せなかったのだ。
その上精神を乱されたことで威力が弱まり…完全に防がれてしまった。


吹雪が止むと…ジャボーは顔を上げていた。
その瞳は濡れ、頬も濡らしている。
「ようやく本質を現したな…」
サイベルが彼の表情を確かめ言った。
一方ジャボーは泣きながら呟く。

「…何故……ここまでしても…
お前達は私を見限ろうとしない…?」

「先刻ハインが死ぬ幻を見せたのはそのためか。
お前に対し本気の殺意を抱かせ、それから戦意喪失を図るつもりで……」
思い返して言うシング。
「…これ以外に思い付かない……“終戦”を実現させるための方法は…」
彼は三騎士との対話の中、遂に真意を語った。
「やはり私は無能……望みの力を得ても尚…こんな真似しか出来なかった」
「才能など関係あるものか…
我らもお前も……終戦のために尽力したのは変わらぬだろう?
…それに…どのみちこの国は滅ぶさだめだった」
「……何…?」
ハインの言葉に驚くジャボー。
「寧ろお前が来て幸運なくらいだ…
お前が追放されてから今に至るまで、増々アルテナは血を求めるようになった。
このまま国が戦争を続ければ……お前が見せた幻は現実となるだろう」
「そんな……」
そう、彼が危惧したことが起きていた。
前回行った町と同様…アルテナの人々の心も荒んできている。
上層部の者や兵士は命を軽んじ、民の間で窃盗や殺人が日常茶飯事となったのも事実だ。
「これで、我らの望みは叶う。
人々を守ることが出来たのだ…戦乱の渦、そして狂気から」
言った後で、サイベルは静かに語る。
「……だが、少しも喜べはしない。
我らの心も荒んでしまったか…お前をそこまで追い詰めたためか……」
そしてその声は震えていった。
「本来…我らにお前を正そうとする資格などない。
お前を救うことも出来ず……狂気に染まるアルテナも止められなかったのだからな…」
それからハインも続く。
「全くだ……力を欲したのは一体何のためか。
扱いを誤れば新たな争いの火種となる、それが力だと分かっていた筈だがな…」
最後にシングが言った。
「……故にお前を責めることも出来ぬ。
今日のお前の行為…辛くも、国を想っての最善策に変わりないのだから…」

「だからとて…──────」

だが、彼らは突如剣を構える。

「追い詰められた友をみすみす放っておけるか!!」

一転して覚悟を見せた三騎士。
それを映したジャボーの瞳から、更に雫が溢れる。

心が見える故に耐えきれなかった。
語らずしても、一点の曇りなく流れ込む三騎士の心。
先程まではあえて彼らの心を見なかったが、あまりにもそれは眩しく重過ぎる。

「…だから…心など見たくなかった……」
涙声で呟く彼。
しかし、気丈にも負けず…。
「私とて…最早後戻りは出来ない。
既に身も心も穢れた……ならば道は一つのみ!」
泣きつつ“イーゼラー”を発動させた。

「誰にも邪魔は……させないっ!!」

巨大な黒球は破裂し、三騎士を吹き飛ばす。
「ぐぉっ!」
「がっ…」
「っ……!」
鎧のお陰でダメージは軽減されたが、彼らは数m飛ばされ散り散りとなった。
「「「!」」」
やがて闇が消えると、ジャボーが遥か上空へ移動していた。
あれでは三騎士も手出し出来ない。

「…どうしても進むというのか……ナシウスッ!!」
ハインは彼に届くよう大声で呼びかけた。
更にこう付け足す。
「我らと…再び進むことは出来ぬのかっ!?」
すると、ジャボーは強く答えた。
「それは不可能だ。
この通り、私は最早人ですらない!
もう進むより他はないんだ…独りでな!!」
「っ……」
ハインは心底落ち込んだようで、大きくしおれる。
他の二人も深く悲しむ様子を見せた。

そんな三人の心を見て、罪悪感と悲しみに襲われ…それを強引に打ち消そうとジャボーは言い放つ。
「…もう戦わせはしない。
戦争に狂う国々の者も……お前達も!!」

その言葉から、三人は彼の真意を読み取った。

彼もまた、自分達のことを深く想っていたのだ。
冷酷非情な態度を見せ、殺意を抱かせ…そうして自分達を突き放し…全ては自分達やアルテナの人々が、これ以上戦争で傷付くのを食い止めるためである。

三騎士は兜の下でそっと涙し…サイベルは言う。
「…ならば、最後に伝えよう!」
「…?」

「お前の意志が少しも変わらぬように…昔も今も…これからも我らはお前の友だっ!!
そして友として…いつしかお前の魂が救われんことを!心底祈り続けるっ!!!」

「っ……う…」
遂にジャボーは嗚咽を漏らした。
しばらく顔を覆った後で三騎士へ言う。

「……ありが…とう……許して…くれ…!!」

言葉を遺し、とうとうアルテナを去った。



三騎士は、彼の居た上空を惜しむように眺める。
気が遠くなる程の間。

ジャボーは二度と三騎士の前に姿を現さなかった。
その後、彼らが亡霊となるまでのことを知る者はいない。





「ぐっ、うぅ…ああぁ…!」

アルテナより少し離れた平原、そこでうずくまる者が居た。
「っ……んんっ!うぐぅううっ!!」
ジャボーは草を強く握り締め、苦しみに耐える。

聖灰が、肉体と心を更に侵し出したのだ。
彼の心が著しく弱ったためである。

「あぁっ…ぐ、う、うあああぁ…」
その呻きには嗚咽と涙が混ざっていた。
様々な思いが脳内に走り…その中で彼は一つの考えに達する。


これは心の苦しみ…自らへの戒め。
心があるからこれ程までに辛いのだ。

ならば完全に心を閉ざそう……。

たとえ全人類から恨まれようと、果たさねばならないことがある。
自分には、何事にも揺らがぬ屈強な心が必要だ。
閉じた心には何も届かない…故に痛みも感じない。


そう思うと、この苦しみも少し収まる気がした。



「聖灰の侵食を…止めたですと……!?」
水晶からジャボーを観察し、オムスは驚愕する。
「…これは驚いた。己の意志で聖灰を支配したか……」
レイナスもまた、衝撃を受けた様子だ。
「つまりは…今までにない完全な“執行者”!?」
「ああ。私達が見たのは……その誕生の瞬間だ」



「もう…誰にも心を開きはしない…」

ジャボーはゆっくりと起き上がった。
一層その魔力は強まり…
“閉じた心”を象徴するかのごとく、顔は闇に覆われている。
更に心を閉ざした影響か、“読心”の力も己の意志で操れるようになった。
つまり、見たい時にのみ心を見ることが出来るのだ。

「次に好戦的な国はどこだ…」
呟いた後に考え、やがて頭にとある国が浮かぶ。
「……あそこか」
アルテナと敵対する強国…ベルダーナ。
ジャボーはゆっくりその方向を見た。



こうしてジャボーの勢いは留まることを知らず、数多の国が他国との戦争を放棄した。
更にベルダーナが壊滅した頃からか、心の一部を失った者が激増する。
やがて人々は彼らを“ヌケガラビト”と呼び始め…他国より何より“漆黒の魔導士”を恐れていった。

世界そのものを“閉じた心”に変える。
全ては平和がために─────


その世界改革は100年以上も続き……同じ間だけ“心の闇”は彼の中に巣くっていた。

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            ~END~

【二ノ国小説】part15「お前ではない」【※ks&グロ注意】

皆さんこんばんちは(*・ω・)ノ

我らが冬休みも遂に終焉を迎えましたな……(´・ω・`)
…そーいやこの小説描き始めてから一年くらい経ってんのな。
よし、今年はこの小説を書き終えられるよう頑張ろう!願わくば新章突入とk(ry

さて、この小説にはグロ表現・鬱描写が含まれておりますので閲覧の際は気を付けて下さい。

アルテナを壊滅状態にまで追い込んだジャボーさんと、そこに現れた三騎士さん…果たしてどうなるかな!?…っと((
因みに今回は結構長め。

では今回も…ゆっくりしていってね! ───────────────────────

二ノ国 magical another world

精神融裂~モノクローム絶対神




「我らが同胞達を……おのれ…」

銀の鎧を纏った騎士、ハインは周囲に転がる仲間達を見て呟く。
皆、血を流したまま地面に横たわっていた。
「最早許しはしない。
お前の命…此処で頂戴させてもらおうか」
黒き鎧を纏った騎士、サイベルが鞘から剣を引き抜く。
その構えは真摯な彼の性分を物語ると同時に…アルテナの実力者“三騎士”の一人だと、瞬時に察しがつく程の闘志を醸し出している。

「…命なら既に投げ捨てた!
お前達もこの者共と同じ運命を辿るがいいさっ!」

高笑いしつつジャボーは応え、サイベルの方へ振り向いた。
その隙に、白い鎧を纏い…首元までがっちりと覆うタイプの兜を被ったシングが、上官の身を抱える。
「信じられん…貴方がここまで追い詰められるなど…!」
上官にそう話しかけるものの、彼は完全に放心状態であった。

きっと他の仲間達も、あの魔導士によって…。

悔やみつつ、上官を安全圏へ置くシング。
そして彼も、サイベルやハインの元へ走った。


「命を…捨てただと……!?」
「常人ならざる魔力は薄々感じていた……
だが一体…貴様は何者だ!?」
「…さあ、お前達が知るべきことではありません」
サイベルとハインはかなり動揺する。
その実力と経験故に、動揺など殆どしない彼らだが…今回のジャボーは全く未知の相手であった。
「戦前に動じては勝機など有り得ない…どんな相手だろうと、我らは戦わねばならぬ」
聞こえていたらしく、二人と合流したシングが諭す。
「…そうだな……戦わずして相手を知ることは出来ない。国を守ることも…」
噛んで含めるように言うハイン。
そんな二人にサイベルは頷き……

「我ら騎士団……これより母国アルテナを死守する!!」

二人と共にジャボーへ向かい走った。
「ふふふ…待っていた!!」
一方ジャボーは、意図の読めない言葉を発して“無限の炎”を飛ばす。
「ぐっ…!」
その蒼炎は“ファイアボール”と比べかなり速い。
彼らは間一髪の所で、剣に吹雪を纏わせて打ち消した。

三騎士の戦法は異彩を放つ。
アルテナの戦力は二極化しており、ナシウスのいた兵士団はひたすら魔術を…三騎士の率いる騎士団はひたすら剣術を極める。
だが、彼らはその二つを融合させた。
彼らの持つ“アルテナソード”は杖の代わりにもなる代物で、且つ武器としても強力…
騎士団の中で、人知れず魔術も極めた彼らにこそ相応しいと言えるだろう。

「…流石はアルテナの三騎士。魔法への対処法も素晴らしい」
言いつつジャボーが新たに魔法を発動する。
「これにはどう対処してみせる!?」
彼が次に飛ばしたのは、黒い雷。
さながら光線のようであった。
「シングッ!」
「…ああ!」
掛け合いの後、ハインは吹雪を、シングは炎を剣に纏わせる。
そしてサイベルが強風を起こし、吹雪を別の方向へ誘導。
更にシングが吹雪に炎を重ね……
空中に水流が生まれた。僅か数秒のことである。

「……!」
ジャボーは目を見開いた。
“闇の雷撃”が突如現れた水流を伝い、水流と共に上空へ消え去ったのだ。
そして…。

「覚悟ぉ!!」
「うぐっ…!?」

風を発生させた直後、背後へ回ったサイベルの剣で……遂にその心臓を貫かれる。
「…これまでのようだな…漆黒の魔導士」
サイベルはジャボーから剣を引き抜いて言う。
「……?」
しかしそこで違和感が出る。
何故だか、初めて会ったこの男にデジャヴを感じたのだ。
そして近距離で感じるこの魔力…それは強大ながらどこか懐かしい。

「…言ったろう、命などとっくに捨てたと」
「!!!」

ジャボーの声と共に、彼は触手の波へ飲まれた。
「そんな馬鹿なっ…サイベルッ!」
「心臓は確かに貫いた筈だぞ!?」
二人は信じられない。
サイベルによって、的確に心臓を貫かれた者が生きているなど。

「ぐっ…あ…!」
全身に触手が絡みつき、身動きがとれぬサイベル。
「その鎧を貫くのは不可能でしょうね…ならば隙間から中身を貫く!」
そう言い、ジャボーは触手を鎧の隙間から侵入させた。
「うぅ…くっ…」
剣を持つ右腕を動かそうとするが、やはり動かない。

ならば責めて、先程生まれた疑問をこの男へ…。
…でなければ自分は死んでも死にきれぬ。


「お前はっ……ナシウス…か!?」


刹那、触手が緩んだ。

その僅かな隙にサイベルは触手を斬り刻む。
「サ、サイベル!?」
「何を言っている!?」
サイベルを救おうと走るハインとシングが、その足を止めた。
ジャボーもまた、一変して呆然としている。
サイベルの言葉は、瞬時に周囲の者の動きを止めたのだった。
「…その者がナシウスな筈がない。
彼は心より国を…民を想っていたんだ……最後までな!
ナシウスに…こんな真似が出来るものかっ!!」
ハインがサイベルへ叱声を飛ばす。
「我らが何のために決意を固めたか忘れたのか……
我らが国を死守してきたのは、彼を救えなかった償いもあってのこと…いつしか、彼の望む“終戦”をアルテナへもたらすためだ!」
シングも同様だ。

国を壊滅状態にした凶悪な魔導士が、平和を望む心優しい旧友と同一人物などと思える筈がなかった。
彼らにしてみれば、そんなことは考えたくもないだろう。

「決して彼の犠牲を忘れたのではない、忘れられるものか。
増してやナシウスがこんな真似をするとは思えぬ」
サイベルが二人を諭す。
「…だが、お前達も聞いただろう?
多くの魂がさ迷う“死者の湖…そこに身投げした兵士がいる、と」
「……まさか…」
「…そのまさかで、その兵士が彼だとするなら…────」
「そんな筈はない!…そんな…筈……っ」
ハインは強く否定するが…やがて、シングと同様に沈黙した。

本当は、彼が身投げしてもおかしくないと悟ったのだ。
それだけの、独りで受けるにはあまりに耐え難い仕打ちをナシウスは受けたから。

ただ信じたくなかった。

どこかでまだ、彼の生存を信じていたいだけなのだ。

「…先程お前が言った“命を投げ捨てた”という言葉……つまりは、こういうことでないのか?」
今度はジャボーに話しかけるサイベル。
ジャボーはしばらく無表情で沈黙していたが…。
「……だったら何だと仰る?」
再び笑顔を“貼り付けて”答える。
相も変わらず心情の読み取れぬ、ある意味で完璧な笑顔。
だが、サイベルはそこから必死さを感じた。
自らの動揺を隠そうと必死であるかのような……。
「ついさっきお前達が語った“ナシウス”の人格…アレは所詮、無知故に形成された過去のものだ」
ジャボーは三騎士の言葉に反論する。
「…償いに関しても同様。
それで救われるのは死者でなく自分だ。
そもそも、死者が真に望むことなど分かる筈がない……結局はエゴなんです」
それから畳みかけた。
「くくっ…しかし、そんな無能な兵士も遂にくたばったようで!」
「っ……な……」
「……そう、“ナシウス”は死んだ。
今ここに居るのは…私は“漆黒の魔導士ジャボー”!!」

ハインとシングは、かなりのショックを受け…しかしながら真実を受け入れる。
ジャボーが今語った言葉は全て、本人しか語り得ないものばかりなのだ。
「つまり今のお前は…かつてのお前と違う、と言いたい訳か」
「まさしくその通り…」
一方サイベルは、至って冷静に…実のところ他の二人と心情は同じだが、ジャボーへ問いかけた。
そして更なる問いかけをする。
「…では改めて聞こう。
お前は何故母国アルテナを襲撃し……」
だが、遂に変化を見せた彼の声色。

「何故かつての友を手にかけた!?」

落ち着き払った声は、いつの間にか叱声に。

いくらあのような仕打ちを受けたとは言え、母国を襲撃し…増してや、人を殺められるような人間ではなかった筈だ。
それどころか、兵士団の誰よりも命を重んじていたというのに……。
仲間を殺されたのは何より…こんな真似をした旧友への憤りと戸惑いがサイベルにあった。

「決まっています…今や此処も愚国となり果てた。
故にまずはその戦力を───────」
「お前ではない」
「っ…!?」

突如、サイベルはジャボーの言葉を遮る。
更に彼は踏み込んだ。
「……私はお前に答えを求めているのではない。
私の問いは…心を閉ざし、その無機質な口調や表情で自ら他者と壁を作っている今のお前に対してではなく………」
図星だったようで、ジャボーも遂に冷や汗を浮かべる。
彼の、他者に対する妙に丁寧で無機質な態度…それはまさしく、他者との無干渉を望む結果だったのだ。
そして、今度はサイベルが畳みかける。

「共に戦った我らが親友…ナシウスに対してのものだ!!」


「サイベル……」
「…………」
サイベルの言葉に胸打たれた様子のハインとシング。
「っ………」
そして…動揺を隠せずに沈黙したジャボー。
まだ彼は“戻れる”のかもしれない。
そうサイベルが確信した時であった。

「ひっ…!?」

突如響く少女の声。
声のした方を見ると、そこには立ち尽くす少女がいた。
「…外界の様子でも見に来たかっ…!」
「何をしている!早く逃げろ…早くっ!!」
シングが呼びかけるが、一般市民と思わしき少女は怯えたまま動けないようだ。
そんな少女にすら、ジャボーは容赦なく触手を飛ばす。
「止めろっ…ナシウスゥッ!!!」
「……お断りしますよ」
サイベルの制止にも彼は応じなかった。
やむを得ず、三騎士は少女のもとへ走るが…。
「ぅぎっ!?」
遂に、触手が少女の両脚を貫く。
「あっ…あぁあ……」
「周囲に背くとは悪い脚だ。
罰として二度と歩けない体にしましょうねぇ…」
再び彼は冷笑を浮かべた。
そして更に……。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああぁっ!!?」
くるぶしを両方貫く触手。
直後、少女は文字通り腰を抜かし、やがてすすり泣いた。
「ひぅっ…うぅぐうっ!痛いっ…痛い痛いっ、痛いよおおぉ!!
……ごめんなざいっ…うぎ…許じでぇ……」


「何と言う…ことをっ……」
シングは思わず失速してから止まり、身を震わせる。
ほんの一瞬…全速力で駆けた三騎士でも、少女を救うことは叶わず。
「…間に合わなかった……」
サイベルすら、足を止めずにはいられなかった。
少女を救えなかった罪悪感と、旧友の残虐非道な行いへのショック…それはかなりのもの。

「何を立ち尽くしているっ!?
…まだあの子は生きているんだっ!!」

ハインが二人の方を一瞬見て独走した。
彼は三騎士の内でも一際速く、二人より前へ進んでいる。
サイベルとシングは、その言葉でどうにか動き出した。
「…間に合わなくて済まなかった……今、治すからな」
間もなくして少女の前に跪くハイン。
更に剣から、優しい光を放った…“ヒール”だ。
そして患部に剣の柄を近付ける。


「自ら私に背を見せるとはねぇ!!」

声と同時に、彼と少女の頭は雷光へ埋もれた。


「っ…?」
サイベルとシングは、何が起きたか理解出来なかった。
しかし彼らは直後に理解する。

首元から煙を吐き、頭部を失った二人を見て。

先程まで動いていたその体は人形のように崩れ…庇うかのように、首なしの少女に重なる首なしのハイン。
遺された二人は硬直し、やがて身を震わせた。
「……ハイン?」
「どういうことだ…?」
呆然と呟くが、じわじわ感情と実感が込み上げる。

「…あ…あっ……」
「ハインッ…そんな!ハイイイィィイインッ!!!」

「あははひゃはははははははははははははっ!!
どうです?目の前で大切なものを奪われた気持ちは!?」
膝から崩れ落ちる二人を見て笑うジャボー。
その狂った笑い声はしばらくしてから止み、彼はハインと少女の遺体を見た。

「……私は自分を殺したのだ。
母国、仲間、民……友を殺すことなど…あまりにも容易い」

その表情と声は、一瞬で恐ろしく冷たいものへ変わる。
これこそがジャボーの本性なのか。

「……く…も…」
その時、サイベルが呟きつつ起き上がり…シングが無言でそれに続く。
その身は震えているが、先程とは異なる意味での震えだった。
故に…二人共剣を強く握り締めている。

「よくもおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

彼らは怒りに身を任せ、剣をジャボーへ向けて特攻した。
「…そうですよ、始めからそう来れば良いものを」
ジャボーもまた、それを迎え撃たんとする。
しかし…────────

「待てぇっ!!!」
「「「!?」」」

その声で三人は硬直した。
そして声は……ハインのものである。
「良く見ろ…俺は生きている」
見ると、ハインはほぼ無傷でこちらを見ていた。
「ハイン!?どういうことだ!?」
「確かお前は先程…!」
サイベルとシングは心底驚く。
確かに見たのだ…ハインと少女の首が消える瞬間を。
しかし彼は言った。
「おそらくそれは幻覚だ!
それに…あの子も本当は存在しない……」
ハインに言われ、少女のいた場所を見ると…少女は跡形もなく消えている。
「…そうだ、本当は誰も死んでいない。
ようやく気付けたが……お前は誰も殺していなかった。
違うか…ナシウス」
「っ……その名で呼ぶなと言って──────」
「止めてくれないか…己を偽るのは」
シングがジャボーの言葉を遮った。
そして、サイベルはゆっくり顔を上げる。

「……確かに分かった、お前の真の目的…。
やはり…お前は我らが親友だよ」

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            ~END~

【二ノ国小説】part14「忌まわしき故郷と旧友と」【※ks&グロ注意】

皆さんこんばんちは(*・ω・)ノ

遂に漆黒の魔導士が降臨なさったようで。
オイ「アレは全くの別人」とか言ったの誰だよ

…さて、 この小説にはグロ表現・鬱描写が含まれておりますので閲覧の際は気を付けて下さい。

そして今回は、二度も下書きボタンと公開ボタンを押し間違えるという恥ずべき失態を犯したのである……川orz
…いや、逆に考えるんだ。未完成だって見られてもいいさ、と。
読者様には「先行公開してみました☆続きは後でネ☆( ・ω<)テヘッ」みたいなノリでやったと弁解すればいいさ…t((氏

ゲフンッ!!(((

では今回も…ゆっくりしていってね! ───────────────────────

二ノ国 magical another world

精神融裂~モノクローム絶対神




「変わらないな……何も進んでいない」

国の中でも一際高い塔の上に立ち、ジャボーは故郷…アルテナを眺めた。
今回此処へ来たのは、故郷の現在が気になったからでも感傷に浸るためでもなく…。

「……これより、進歩無き軍国へ“革命”を」

町中に黒球を生み出し破裂させると、黒い衝撃波が走る。

あの後彼はレイナスの居場所…白の宮殿に飛ばされ、この魔法と“ジャボー”という名を与えられたのだ。
その時のジャボーの虐殺方法が、この魔法と似ていたからである。
魔力を最大限まで引き出しそれを圧縮する…実のところ原理は同じなのだ。
それに気付いたレイナスは確信した。
彼にはこの魔法を扱う素質がある、と。

こうして得た魔法こそ、
究極の暗黒魔法“イーゼラー”だ。



「何だっ…敵襲か!?」
人々は驚き、慌てふためく。
間人は一目散に建物内へ向かい走り、
兵士達はイーゼラーが発動した現場へ集った。

「初めまして、こんばんは」
「!!?」

すると、そこに黒ずくめの魔導士が舞い降りる。
「な、何者だ!!」
「ご覧の通り…“漆黒の魔導士”です。名をジャボーという」
「何のために此処へ来た!?返答次第では容赦しない!」
「簡単なことです。
この国の権力、戦力、財力…全てを掌握する上層部の者を一人残らず差し出せ」
「なっ……!!」
兵士達に衝撃が走った。
つまりそれは、上官や大臣…そして王の身柄までも引き渡せという要求である。
「ふざけるなっ…そんな要求を飲める訳あるか!!」
「…私はあなた方と違い平和主義者なのでね。
従って貰えればあなた方にも…国民にも指一本触れない」
兵士達はしばし悩んだ…が。

「我らの役目は…“国”のため命を賭して戦うこと!お前のような不届き者は今ここで倒す!!」

彼らは覚悟を決め、闘志を燃やし武器を構える。
「それは残念……私の言う“国”とあなた方の言う“国”は違うらしい」
兵士達を見てジャボーは含み笑いした。
彼もまた、戦闘形態に入る。

「よろしい、ならば死にたい者だけ掛かって来なさい!」





「一人殺せば殺人者。十人殺せば死刑囚。百人殺せば英雄で…… 」
ジャボーは静寂な町で呟いた。
…町とその身を赤く染め上げて。

「全滅させれば神となる」

言いつつ一人の男を見た。
「…本当ですね。これぞ戦争の真理だ」
「貴様ぁ……」
「アルテナ兵士団の上官さん。貴方もそう思うでしょう?」
そこには、ジャボーにとって見慣れた者…
アムダ侵攻の際に“女子供まで焼き尽くせ”と命じた上官が居る。
顔は兜と覆面で隠れているが、唯一見える目から憎悪の念が伝わった。
「自らやって来るとは流石です……そんな顔をしないで下さいよ」
ジャボーはそれに、笑いつつ応える。
「私は“死にたい者だけ掛かって来い”と言ったのです…しかしそれでも彼らは向かって来ました。
……そう、私は彼らの望みを叶えたに過ぎないのだ」

「貴様あああああああぁぁぁっ!!!」

その言葉で上官は激怒し…ナシウスと同じように叫んだ。



「あれでは化け物ですな…これまでの執行者と同様の……」
オムスは水晶に映るジャボーを見た。
今回のアルテナ侵攻も、白の宮殿からレイナス達が観察しているのだ。
「果たしてそうかな…」
「…と、申されますと?」
「オムス…奴はやはりこれまでの者と違う。 無益な殺生を“全く”行っていない」
「ですが兵士達は……」
「…まあ、見ていれば分かることだ」
「はあ……」
女王の言葉の意味が分からず、オムスは首を傾げることしか出来なかった。



「何だっ…コイツは……ガホッ!! 」
上官は傷付き、吐血しながらジャボーを見つめる。
「本当に流石だ…私には大道芸にしか見えませんがね」
「効かぬというのかっ…魔法が……」
苦悶と焦燥で脂汗を浮かべる彼に対し、ジャボーは一切戦闘前と変わらぬ様子だ。

あの時以来、彼は一切魔法に干渉されない体を手に入れた。
どうやらダークミストという魔法の霧のお陰らしい。

「…では、これにて……」
笑顔を貼り付けたまま袖から触手を飛ばす… が。
「ぐっ…!」
間一髪の所で上官が避け、それは兜を掠めた。
「まだそこまで動けるとは… 」
ジャボーは触手を引っ込めて再び笑う。
「残念だ……脳から足先まで貫通させてみたかったが。
脳死状態となった貴方のご尊顔、どんなものでしょうかねぇ?」
その様子は愉快げだ。
「っ……な…」
対して上官は身を震わせ…。

「なめるなああぁぁっ!!!!」

素速く彼に向かい走る。
一方ジャボーは、触手を飛ばし対応しようとしたが…。
「二度も同じ手を…食らうかあぁっ!!」
上官は短剣を引き抜き触手を切り捨てる。
そして、かなりの勢いで彼の首に掴み掛かった。
「んっ…!」
魔導兵とは思えぬ握力にジャボーも驚き、苦痛で顔を歪める。
「どうだっ…人より魔力が秀でた程度でつけあがるな!!」
上官は目を見開いて怒鳴りつけた。
「魔力に頼り切った若僧が!数多の者を戦力に仕立てた私を倒せると思ったか!?」

「…見える…私には見えるぞ……
数多の国を無に還し…積み上げられた誠のお前の真実……この国の真実が」

ジャボーは先程までと態度を一変させる。
眼光は鋭く、口元は裂けたように歪み…人間離れした表情だ。
「うっ!?」
そして、鎧をも貫通し上官の腹部を貫く触手。
「ぐ…ぅ……」
思わず彼はジャボーの首から手を離した。
「…なめるなと…言ったろうっ!!」
それでも再び短剣を振り上げる上官。

直後にその腕は貫かれた。

手のひらから肩辺りまで、触手は肉を裂いて侵入する。
もう片方も同じ状態に。
「ぎっ…ぐ、あ…あっ……」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あぁアあああアアあアアアァア!!!!」

悲鳴と同時に触手が引き抜かれ、両手から血飛沫が飛んだ。
「二度も同じ手は食らわない…それは私とて同じだ」
ジャボーは冷笑して上官を見る。
彼は力無く膝を突いていた。
呆然とし…瞳から光が消えた様子だ。
最早、両腕をまともに使うこともままならないだろう。

魔法使いにとって、両腕を失うことは死にも等しいことだった。
一度そうなると、仲間の回復魔法で治す他は無い。
それは彼ら自身が最も分かっている。
しかし、上級の魔法使いである上官は取り乱してしまった…
部下が全滅し、相手には魔法も通じないという異常な状況で。
それこそ、上官でさえ絶望へ追いやられた訳だ。


「はひゃひゃっ…見える、見えますよその心!
これが絶望に染まった心か……まるで底無しの闇の様!!」
ジャボーの目に映る上官の心…それはどこまでも黒かった。
底無しの闇、それが一番しっくり来る。

きっと少し前までの自分…否、今現在の自分の心も──────

「…心に光が当たらぬなら目に映る光も無意味。
見ろ、その眼も今や外界でなく…お前の心を映している」
言いつつ彼は触手を伸ばしたが、今や上官に抵抗する様子は無い。
「では早速、眼球を神経から切り離しますよぉ…
どんな音がするんですかねぇえええ!?」
最高に狂った笑顔を浮かべて眼球へ触手を伸ばした。

「!?」

そして触手を止める。
どこからか気配を感じたためだった。




「…………」
「……おや、まだ戦力が残っていたか」
「…お前か……」
「ええ、全て私の所業です」

ジャボーは背を向けたまま背後の声と対話する。

既に、誰が来たかは想像がつく。
金属の擦れるような音が聞こえたから。


彼の背後にいた男…否、男達は鎧を纏っている。
一人は黒き鎧…残りの二人は白銀の鎧だ。

彼らもまた、ジャボーにとって懐かしい存在であった。

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            ~END~

【二ノ国小説】part13「物色する影」【※ks&グロ注意】

皆さんこんばんちは(*・ω・)ノ

今回のテスト…理系教科は惨敗でした((どーでも良い
tkクリスマス前に何つーモン投稿してくれるねんっ!!
…それはさておき、 グロ表現・鬱描写が含まれておりますので閲覧の際は気を付けて下さい。
前話のラストで、嫌な予感がした方がほとんどと思いますが、挿絵も文も“出来るだけ”自重するよう善処致します((ヲイ

最後に…今回は特にキャラ崩壊・猟奇的描写が多めです。
…が、今回以上に過激な内容にする予定は今後ありません((ぅえ

では今回も…ゆっくりしていってね
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二ノ国 magical another world

精神融裂~モノクローム絶対神



「あぁあああぁああ腕がぁあっ私のうでがああああぁあ!!?」
一瞬にして片腕を失った男性は、恐怖と苦痛から叫び悶える。

「…では、そちらに入っているのかな?」
先程もぎ取った肉塊を投げ捨て、男性の方を向く青年……その目は少し前までと別物だ。
彼は男性の元へゆっくり近付く。
ねっとりしたような歩み方で。
「ああっひ…来るなっ、くるなぁ化け物がぁああ──────」

黒い触手で射抜かれる彼の身体。
触手は痙攣を起こす男性の体内を這い、破壊し…
やがて、そこに肉片が飛び散った。

単なる肉と化した男を、青年は歪んだ笑顔で見つめる。

「やっ…やっぱり敵襲だあああぁっ!!」
「逃げろっ、殺される!!!」
「オイ邪魔だどけええ!!」

人々は他者を押しのけ阿鼻叫喚する。
一方青年は彼らを追うでもなく、赤子の遺体を道端に置き笑いかけ……姿を消した。
「えっ……消えた?」
「気を付けろ!一体どこから現れ─────」

二人の男女の頭も消える。

人々が気付いた時には、二つの生首を絡め取った彼の姿が。
「く、首が、人の首がああぁっ!!」
「嫌ああああああああぁ!!!?」
「ぅぷえっ…むえ゛え゛え゛え゛エエェ!!」
更に混乱する人々。
あまりに衝撃的な光景で嘔吐し、泣き叫び…。

「おかしい…ここにも無いとは……」
彼は解体した生首を見て自分の首を傾げる。
人が思考するために不可欠な器官。
ここならもしや、と思ったが…剥き出しになったそれを見つめたところで何も聞こえない。何も見えない。
只の肉塊と化してしまった。

一体どこに“心”はあるのだろう。
そう思いつつも、それ以前にやりたいことがある。
実行へ移そうとした時……。

「燃えろ化け物ぉ!!」
「?」

声の方を振り向くと、眼前にまで迫る大量の炎…複数の“ファイアボール”が見えた。
奥の方には、人々の中で魔法使いと思わしき者達の姿も。
「ぐふっ…!」
避ける間もなく、彼は無数の炎をモロに浴びる。
「ア゛ア゛ア゛ア゛アアァァッ!!!」
どこか奇怪な悲鳴がコダマした。


「く…は……」
煙が上がる中、焼死体同然の姿で横たわる青年。
こんな体では動けそうもない。
「…くくっ…ふふふ…ふふ…」
しかし彼は突如含み笑いする。
「あははひゃひゃ…はひゃははははは!」
それは間もなく狂った笑い声となった。

これだけ強力な“ファイアボール”が撃てるなら“ヒール”も使えるだろうに。

あの子の命も救えただろうに。

やはり見殺しにしたんだ、“コイツら”は。
ほんの僅かな手間を惜しんで。

青年にとって、彼らが己を守るため惜しみなく
魔法を操る姿は滑稽極まりない。
先程までは虫も殺せぬ優男だったが、そんな彼も遂に決心が固まる。
だが時既に遅し…これでは何も出来ぬ。

「……?」

その時、青年の頬に何か小さな粒が当たった。
「…これは…雪…?……いや…」
雪にしては冷たくないし、第一乾燥している。

まさかこれは。

彼がくすんだ上空を見上げると、自分のいる場所にだけそれは降り注いでいた。
「…うっ…!?」
今にも停止しそうだった心臓が強く脈打つ。
「がほっ…うぅっ…ぐっ!」
あまりの激しさで胸が苦しくなる程。
実際の鼓動は健常者と変わらないのだが、心臓が急激に活発化したための一時的な苦しみである。
「…あっ…くはぁ…。……っ!?」
彼はようやく気付いた。
それが傷口から体内へ浸透し、己の火傷を癒やし……おぞましき力を流し込んでいることに。

間違いない。これは湖の中で見た、あの輝く粒子……。

「………」
やっと今の心拍数に慣れてきた…と同時に妙に気持ちが高揚する。
まるで脳を刺激し、強い快楽をもたらすという麻薬を摂取したかのよう。
……代償に何かを失う点も同じだ。
彼は既に先程失った…否、捨てたのだが。


周囲の煙が消えかけ、無意識に高揚していく気持ち。

今なら本当に何でも出来る。

そんな思いを胸に、青年は全身から“闇”と呼ぶべき漆黒の気体を放出させた。




「あひゃはははははははははははははははは!!!」


高笑いと共に煙中から現れし者…それは全身に漆黒の魔導衣を纏っている。
その手には質素な杖も…。
本人より大きな外套が彼の魔力で翼のように揺れ、人々の目には悪魔が映った。

「な、なにっ…何で生きてるんだアイツはぁ!?
…私は逃げるぞ逃げ切ってやる!
私だけでも生き残るんだあああっ!!」
炎を放った魔法使いの一人は錯乱しつつ悪魔へ背を向け、走り出す。
その直後。

「…へ?」
「そうか…そうですか。
そんなに了見が狭かったんですかぁ…」
目の前に突如悪魔は現れた。
魔法使いは、全く心情の読めない瞳と笑顔に引き込まれて─────
「あぢゃっ!?」
蒼炎に包まれ青年と同じく黒コゲとなる。
ただし、こちらは完全な炭だが。


「また誰か死んだ!?」
「あ、悪魔だっ…俺達を地獄へ連れに来たんだあああああぁ!!」
「馬鹿なこと言わないでよ!?
そんなことあってたまるもんですかぁっ!!」

人々は更なる恐怖で走りつつ泣き喚き、はたまたショックで動けず呆然とした。
これが悪魔…漆黒の魔導士ジャボーが人間へもたらした最初の“絶望”。
「……一人も逃がさない」
しかしジャボーはまだ止めない。

心の腐ってしまった可哀想な民に、あの子の“絶望”を教えてやらねば。
どんなに苦しもうと誰も助けてくれない、誰も愛してくれない…そんな“絶望”を。

それこそが成し遂げたいことである。
あの子を見殺しにした者は、一人残らず…─────


杖のお陰で先程より力を引き出し、コントロール出来るようになっていた。
不思議なことに、自分が聞いたことも見たこともない魔法のルーンばかりが脳内に刻まれている。

そんな魔法の一つを発動して町全体を見渡せる程高く飛翔する彼。
混乱する人々が一人一人鮮明に見えた。
迷うことなく袖から大量の触手を地面へ植え付けて…。

「な、何だっ…うわあああぁ!!!?」
人々の周囲から、触手の束が生え彼らを包囲していく。
束は人々の前に立ち塞がり、一人も漏らさぬよう褶曲し互いに組み合わさる。

やがて、そこへ黒く巨大なドームが出来上がった。


「で、出られねぇ…出られねぇよお!!」
「完全に閉じ込められたのか…」
「う、嘘!こんなの夢でしょ!?夢に決まってる!」
人々の周囲は真っ暗で、出口の証となる光も無かった。
出口などどこにも無いのだから当然と言える。

「人の夢は儚く…嘘は信じた者を不幸にする」

暗闇の中で、青白い紋様と二つの丸い瞳が光り出した。
ジャボーがドーム外から中へ瞬間移動したのだ。
真っ暗で何も見えない筈だが…彼にだけは鮮明に見える。
色彩の乏しい、くすんだ民衆の心が。

「これは現実なんです、“夢”を見るのは止めなさい。
“信じる”ことも止めましょう、自分に裏切られてしまいます」

その口調は妙に明るく、そして妙に無機質だ。
暗闇で浮かべる笑顔も同様。
しかし、その目だけは違った。

「こんな“心”などいらない……皆潰れてしまえ」

純粋な殺意だけを感じる瞳…人々が最期に見たものである。




間もなくして、ドーム内より多くの悲鳴が上がった。
その直後ドームは肉を潰したような音を立て、大量の赤い液を噴きながら圧縮される。
それを空中から眺める男が一人……。

「くくっ…あははっ、
はぁひゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」

その狂った高笑いが町へ響く。
短時間で町は絶望に染まり…一人の心優しい青年は狂気に染まった。


二ノ国に、一つの厄災が誕生した瞬間である。

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             ~END~

【二ノ国小説】part12「真実」【※ks&グロ注意】

皆さんこんばんちは(*・ω・)ノ
前回から場面も主役も変わっております。
…tkこの小説って主役がハッキリしてないッスね(´・ω・`)
強いて言うなら影…か?
あ、でもジャボsとかエビ君もそれっp((逸れてる
…まあとにかく、グロ表現・鬱描写が含まれておりますので閲覧の際は気を付けて下さい。
只でさえボロボロなナシウスsのメンタル…どうなるんでしょうかね((

では今回も…ゆっくりしていってね
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二ノ国 magical another world

精神融裂~モノクロームの絶対神



「あの者には何が見えているのでしょうか…」

白の宮殿にて、女王レイナスとオムスはナシウスを観察していた。
水晶に映る彼はとある町をさまよう。
「言ったであろう…“真実”だ」
人語を話す鳥の疑問へ女王は答えた。
オムスは少し首を傾げた後に言う。
「つまりは“心”……でございますか?」
「そう、心だけは偽れぬ。覗けば人の本性が瞬時に伝わるのだ…」
それから目を細める女王。
「奴はかつての私そのものよ……
真実を知らずに身近な人間から裏切られ、それでも人間を救おうとし…その行為が逆効果となり…」
王室内に僅かな沈黙があった。
「……しかし、妄想はいつも教えてくれる。虚しい現実ばかりをな。
奴とて同じだ…聖灰により得た力が必ずや、奴の人間に対する“妄想”を打ち砕く」
「…左様で……
ですが気掛かりなのは…これまでの者達と同じく、自滅しかねないことですな」
当然ながら、一万年もの歳月で生み出した“執行者”はナシウスが初めてでない。
理由は違えど、絶望に堕ちた人間ばかりだった。
聖灰は負の感情を魔力へ変換するため、彼らと相性抜群だ。
健常者に与えれば醜悪な魔物と化すが、彼らの場合はそれを越えた不死者へ変わる。

ただ、そんな聖灰もデメリットが多い。
その中でも…聖灰が本人を支配すること。
理性を徐々に奪い、意志に反して破壊活動を行い…やがて本人の肉体すら破壊していく。
そして果てには、彼らの全てが灰となる。

即ち、不死な筈の彼らに訪れる死。

これまでの執行者はそうして消えていった。
皆、長くは保たなかった。
良くても十数年。
聖灰はそれほどまでに強大だ。

「案ずるな…オムスよ」
しかし女王は言う。
「奴の力は、これまでとまるで違う」
「はあ…」
強大な魔力と別に、執行者は本人の個性や心情に合った独自の能力を得る。
そしてナシウスが得たのは…────
「…“読心”…これほど執行者にふさわしい力は初めてだ」
「しかし…それでは寧ろ、彼の心が弱ってしまうのでは?」
執行者が自滅していった原因…それは心の弱さ。
その隙に聖灰が入り込み、執行者を蝕む。
増してや読心など…オムスはそう考えた。
「否、逆だ。この力が心を強くする……心の強さは深い絶望からしか生まれぬ」
レイナスは仮面の下で笑う。

「何より、奴の絶望はこれまでの奴らと格が違う…───」



「誰か…誰か助けて下さい…!」

ナシウスは瀕死の赤子を抱え、町中で叫び続けた。
住民の視線は彼に殺到する。
故に流れ込んでくる声も……。

(何だアレ。嫌なもの見たなぁ…)
(あの人血まみれじゃない…やだやだ…)
(誰か助けてやれよ)

「…どうして……」
彼は声を聞いて愕然とした。
助けたいという意志はおろか、赤子を案ずる意志すら感じられないのだ。
それどころか、こんな声まで聞こえる。

(こんな時代で他人に面倒押し付けるな)
(可哀想に…アイツが殺したんじゃないの?)
(もしかして敵国の人…!?油断させといて皆殺しにするんじゃ……)

あまりに勝手な憶測と決めつけばかり。
「違うっ…!この子はまだ生きてるんだ!!」
だが、彼は状況が伝わっていないだけだと考えた。

(頭狂ってるよ)
(アレじゃあ死なせた方があの子のためだ)
(あんなのには関わらないのが一番)

「…そんな……この子は生きたいと願ってる!俺と違って…この子は…!!」
しかし…彼に向けられる声はあまりにも冷たい。
とうとう涙が出てきた。

いくら他人の子だって…まだこんなに幼い子ではないか。
自分と違ってこの子には未来がある。
それを…見殺しにするつもりなのか。
そんな筈はない、助けてくれる人はきっといる。

涙ながらも必死に訴え続けた…が、住民の心は動かない。
その場を去ろうとする者や、好奇心で見るだけ見て何もしない者すらいた。

「………」
彼は呆然と膝を突く。
気が付けば周囲にはおびただしい数の人が集い、ナシウスへ様々な視線や声が刺さった。
「…誰も…助けてくれないのか……?」

(…ダッコシテ…クルシ……オカアサ……)

「!!」
赤子の声は一層かすれていた。
赤子としての本能か、母親の抱擁を求めている。
…母親が亡くなったことも、彼女から愛されなかったことも知るよし無く。

(……オカアサ…ン……────)

「…!?そんなっ…しっかりしろよ…!」
何も応えぬ赤子。
僅かにあった鼓動も止まった。
「オイ!死ぬなっ!!」
それでも声を掛ける。信じたくなかったのだ。

この子が何も知らず、誰からも愛されずこの世を去った事実。

「…もっと…生きてくれ……」
ナシウスは遺体を抱えうずくまった。
だが、そんな彼に届く心の声は止まない。
あるいは呆れ、あるいは憐れみ、あるいは畏怖…
周囲の人々に、赤子を見殺しにした自覚も罪悪感も無かった。
彼が赤子を殺したかのように罵り、その心を刺し続ける。

「あ…あぁ…」
ナシウスの心は限界に等しく…最早憤ることすら出来なかった。
確かな絶望だけがそこにある。
頭を抱え、耳を塞いでも周囲の“心”からは逃げられない。


また消してしまった…助かる筈の命を。
自分が救おうとした者は皆消えた。
これは自分の無力故だ…周りは悪くない。
ヒトは思いやりの心を持ち、自らの利益に関わらず何かを救うことが出来る生物で…

しかし、今いる人々にそれは当てはまらない。

何故だ…アルテナの人々はそうだったのに。
彼らとこの人々の違いは何だ?
…“心”が見えないから、自分がそう思い込んでいただけなのか?
まさか…今やアルテナの人々もこうなっているのか?
「うあっ…あああぁ……」

違う。こんなのが“真実”な訳ない。

「…ああああっ!うあああああああぁ!!」

“真実”だなんて知りたくなかった。
一体何のための戦いだったのか。
人々を守るどころか…人々を傷付け、心を腐らせるだけのものだったのだ。
自分は何と浅はかなことか。あんなことで平和など訪れる訳がない。

どうすれば良かったのだろう…どうすれば人々を救える?

それを考えたところで、純粋な心は壊れ始めた。

         純粋故に。




沈黙するナシウスへ、長と思わしき中年男性が寄り肩を叩いた。
「…いい加減どいてくれないか?
悪いが迷惑だ…他を当たってくれ。
このご時世、皆自分のことで精一杯なんだよ…────」

瞬間、その腕が消える。

「…え?」
呆然とした直後、強い痛みと恐怖に襲われた。
「ひっ……ぃぎゃああああああああ!!!?」

ナシウスの左腕から伸びた、黒い触手。
それは男性の腕を引きちぎっていた。
僅かに蠢く血みどろのそれを見つめ、彼は呟く。

「…ここに“心”は無いか……」

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             ~END~

【二ノ国小説】part11「暗転」【※ks&グロ注意】

皆さんこんばんちは(*・ω・)ノ

と、ここで念のため忠告。
前回から申しているように、グロ表現・鬱描写が含まれておりますので苦手な方は閲覧注意かもです。
大丈夫という方は是非お目通しくだs((殴
……閲覧は自己責任でオナシャス(´・ω・`)

では今回もゆっくりできない内容だけどゆっくりしていってね

あ、スマホから文字の装飾する方法やっと知れて嬉しかったんで装飾しまくってまs((黙 あと今回長いんd(ry
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二ノ国 magical another world

精神融裂~モノクローム絶対神



     約100年前─────


「…ア、アレ…!?」

“裏切りの兵士”として祖国であるアルテナを追放された青年、ナシウスは混乱する。
敵国の賢者の娘を救い、その罰として居場所も家族も…全てを失って世界に絶望し“死者の湖”と呼ばれるこの湖へ身を投げた……筈だった。

確かに自分は湖へ飛び込んだのだ。その時全身を包んだ冷たい感触も、鮮明に覚えている。なのに…

何故自分は生きている?

気が付けばナシウスはずぶ濡れで岸に佇んでいた。
実を言うと、彼自身が人間離れした生命力を駆使して此処へ上がったのだが…本人にその記憶は無い。

「う…一体何だって言うんだ…」
ずぶ濡れになった体に風が当たり、思わず縮こまる。
今のこの状況が全く把握できなかった。
いくら何でも、この湖に沈みかけて助かるなどおかしい。しかも衰弱すらせずに…。

それに、水中で聞いたあの声。

どこの何者かも分からない声は言っていた。
その絶望を受け止めよう、絶望は心を飲み込みその力を凌駕する。
お前は世界を滅びへ導く存在…“執行者”なのだ、と。

そんなことを言われても…やはりナシウスは理解できない。
絶望が心を飲み込むとはどういうことか。
何故自分が世界を滅ぼすのか…何故自分でなくてはならないのか。
第一、自分は世界の滅びなど願ったこともないのだ。
自分が真に望んでいたのは…─────
「っ………」
そう考えた所で再び“あの時”の記憶…あの鉛のような絶望感が蘇る。
混乱して忘れかけていたが、自分はこれから生きたところでどうしようもないのだ。
そう思い再び自殺を図ろうとした時である。

『それでお前の心は救われるのか?』
「!!?」
どこからか声が聞こえた…あの声だ。
辺りをいくら見回しても、声の主らしきものは見当たらない。
「だ、誰っ…」
『この世界を観察してきた者だ……“灰の女王”と呼んでもらおうか』
「観察…!?」
『…まあそんなことは良い、お前は命を投げ捨てたところで救われるのか?…と問うておる』
“灰の女王”と名乗った彼女の言葉に、半ば苛立ちを覚えナシウスは言った。
「ならどうすれば良いのさ!?俺は守ろうとした子も助けられなかった!
挙げ句の果てに家や家族までっ……皆…皆俺のせいでいなくなってっ…」
『本当に自分一人のせいだと感じるのか?』
「え…」
いつの間にか涙ぐんでいた彼へ灰の女王は言う。
『真におかしいのは冷徹な軍の人間…延々と戦火が渦巻くこの世界だとは思わぬか?』
「っ…!」
図星であった。あの時も“女子供まで焼き尽くせ”と命じた上官、それを実行に移す仲間を疑ったのだ。
彼らはどうかしてしまったのではないか。人の心が無いのか、と。
「違う、俺のせいだ…覚悟が無かったんだ…」
しかし、それでも自分が余計な行動をしなければ、あの子は上官に見つからず自力で逃げ切ったかもしれないし…家族も助かっていたのだ。それで周囲を責めるのは甘え…彼はそう考える。
『女子供まで焼き尽くす覚悟…か』
「………」
『そんな覚悟などいらぬ。そのような真似ができるのは絶望を知らない人間。
お前のその絶望…それを奴らに知らしめてやるのだ』
「知らしめる…って…?」
『言いそびれたが、私はお前に力を与えた。
並み外れた魔力…そして生命力を。
お前が蘇ったのはそのためだ…それを引き出し、使いこなせるかはお前次第だがな』
「そ、そんな…どうしたら…」
『だから言ったろう。この世界を滅ぼせば良いのだ。
そして世界を創り直す…さすればお前が望んだような世界も実現できる』
「…そんな……」
彼は呆然とする。要はこの世界をリセットしやり直す、ということか。
頭では理解したが、どうにも話が漠然としていて飲み込めない。
『私の言うことに納得いかぬか…ならば、まずその目で人間の“真実”を確かめてみろ。
今のお前の目なら“真実”が見える…』
「えっ…どういうことだ!?…オイ!?」
言い残し、女王の声はパッタリと消えた。
「……仕方ない、まず此処を離れるか…」

とりあえず死者の湖を離れる。
行くアテもない彼は、どこを目指すでもなく歩き続けるばかりだ。
「………」
何気なく風景を眺めると、遠くにいくつかの廃墟が見えた。
飛び込む前は自分のことで精一杯で、周囲など見えないに等しかったが…今は精神的に僅かながら余裕ができている。
あそこはおそらく町で、戦火に飲まれ廃墟と化したのだろう……そんなことを考えていられた。

「!?」

その時のこと…彼は奇怪な動きで異様に速くこちらへ近付く人影を見る。
思わず身構えたが…。
「…助…け……くだ…」
距離が近付くにつれ鮮明となった人影は、赤子を抱きかかえる女性であった。
良く見ると女性の服装はボロボロで髪も乱れ…抱きかかえる子はどういう訳か流血している。
「ど…どうしたんですか!?一体何が…─────」
彼女を案ずるナシウスの胸部へ、赤子を押し付け女性が言い放ったのは…。

「お願いです、から…この子…買って下さい……」

「え……?」
一瞬、言葉の意味を理解出来なかった。
彼女が求めているのは、我が子か自分…あるいは両方の救済だと思っていたのに…まさか瀕死の我が子を人身売買へ引き出すとは。
「…でないと私…生きていけな……」

(そうだ、こんなもの早く手放そう。こっちがどんなに苦しいかも知らないでダダばかりこねる…こんな間抜けで臭くてとろいだけの生き物は…)

「…えっ……」
どこからか、憤りつつ赤子を罵る声が聞こえる。
そしてその声は女性のものだったが…自分へ話す声と異なり醜悪な口調と声だった。
「おねが…しまっ……」
(散々泣いて私を困らせたけど…こんなにしつけたんだからきっと大丈夫。
私は母親に向いてなかっただけ…産んでみなければ分からないこともあるんだから……私は悪くない!)
「そんな…!」
ナシウスは女性がそう言っていると思い憤る。
(…産まなきゃ良かった…こんな生き物。大嫌い……嫌い嫌い嫌い嫌いダイッキライ!!)
「…何で…そこまで……自分が望んでそうしたんだろ!?どうして少しも愛せない!?
こんなことするくらいなら…人の手を借りたり人に預けたりした方がよっぽど…!」
言い終えた時には、いつの間にか声は聞こえなくなっていた。
不信に思い女性を見ると…彼にもたれかかり息絶えたようである。
胸元には相変わらず赤子が押し付けられ、ナシウスの服を赤く染めた。

一体どうすれば良いのだろう…。

今は埋葬してやることも出来ないので、遺体を近隣の枯れ木へもたれかけさせる。
花でもあれば供えたいところだが…この辺一帯荒れ地で、雑草すら顔を見せなかった。
そして女性が遺していったこの子…ピクリとも動かないことから、“しつけ”とやらで絶命してしまったのかもしれない。 
そう思っていた時…。

(ツメタイ…クルシイ…)
「!?」

今度は幼子の声が聞こえた。
しかし、この子はどう見ても話せない年齢の筈だ。
まさか…と思い赤子を見ると。
(クルシイ…イタイ…)
「……!?」
赤子の口は動いていない…が、声が赤子の意志なのは明らかである。
では一体この声は…?

「…まさか……」

これは、相手が口に出しているのではない。
考えかけた時ナシウスは確信した。
おそらくさっきの女性の声も同じだ。
これが“真実”というものか。
しかし今は…。
「早く…助けなきゃ…!」
早急に彼は“ヒール”のルーンを描く。だが…。
「っ…!?…そんな……何で…」
ルーンは消え、何も起こらない。
「…クソッ!」
何度も、正確にルーンを描くが…何もそれに応えはしなかった。
それは与えられた力の代償なのだが、焦燥に駆られた彼には分からない。
「こうなったら……」
呟きつつナシウスが見たのは、少し遠くへ見える別の町。
助けを求めるしかない。
彼は赤子を抱きかかえ、その方向へ走る。

これが“真実”だと言うのなら…必ず助けたいと思う者がいる筈だ。

だって、それが“人間”という生き物だから。

彼はそう信じた。“人間”を信じた。
こんな目に遭っても、“人間”は好きなのだ。


今思うと、この淡い期待こそが私の絶望をより深くしたのかもしれない…──────

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         ~END~

【二ノ国小説】part10「反転」【※ks&グロ注意】

皆さんおはこんばんちは。
最近テストも終わって調子が良いです。
…てな訳で勢い余って10もハイペースで仕上げますたw

あ、タイトルにいつも“※ks&グロ注意”と記しておりますが、今回からは特に閲覧注意かもです((え
グロ…というよりも鬱……いや、ネタバレ防止のためこれ以上は止めます((ぅえ
とにかく、そういう表現大丈夫な方はどうぞ(´・ω・`)

では今回も…ゆっくりしていってね
─────────────────

二ノ国 magical another world

精神融裂~モノクロームの絶対神


「ぐっ………。………?」
「…レイ…ナス……?」

レイナスは己を狙う刃に、思わず目を固く閉じた…が、体を貫通したにしてはかなり痛みが軽い。せいぜい針が刺さった程度の苦痛に感じる。
おそるおそる彼女が視界を開くと、驚いた様子のオリバー達、それに…────

「そんなっ…なっ、何故…!?」

更に驚いた様子の影がいた。
影は全身に脂汗を滲ませ、トライデントを手にした己の右腕を見つめる。
「…えっ…?」
レイナスは自分の置かれた状況が理解出来なかった。
確か、影は自分を槍で刺し殺そうとしていた筈。
その刃は僅かだが自分の胸部の肉を裂いており、純白の服は血に染まる。
なのに彼女は生きていた。そもそも刃は肋骨にすら届いていない…皮膚を貫通したに過ぎないのだ。

というよりも、影の右腕がそこで動きを止めた。右腕は細かく震え、影の意志に反し動こうとしない。
むしろ…今刺さりかけた刃を引き抜こうとしているように見える。

「どうなってやがる…!?」
「まさか…アイツの右腕が反発しとる……っちゅー訳か!?」
今自分の眼前に移る光景、そして仲間の言葉を聞いてオリバーは呆然と呟いた。

「……ジャボーだ…」

「ぐ…くっ……目覚めたとでも…言うんですか………ナシウスぅ…!」
「ナシウス…ですって…!?」
影はどうにか右腕を動かそうとした…しかしその度、強い圧迫感と骨が軋むような激痛に襲われる。更にそれは、徐々に全身へ広がってゆく。
「…何故今になってっ…許さない……そんなこと…許さっ…な……」
それでも影は左腕で右腕を掴み、無理にでも動かそうとした。
「ぐがぁああっ…!?」
だが、その左腕も影への反発を起こす。左腕は右腕とは逆方向へ動き、挙手するような形となった。

「な、何なの…どうなってるの……あっ!?」
セバは、オリバー達を襲う白大蛇の異変を見た。
「シャアアアァァ……」
力無い断末魔を上げ、白大蛇は闇となり消えてゆく。
「…どうやら、貴方の迷いを利用したあの手段……あれが仇になったみたいね…」
「ああ…あの時ジャボー様は無意識だったが…一度元に戻され、それにより自我が目覚めつつあるのだろう…」
リーストもエビルナイトも確信した。
彼が影へ斬りかかろうとした時に、影は一瞬だけジャボーの自我を戻していたのだ。
完全に無意識の彼が、それにより目覚めるとは思いもよらなかったらしい。
…誰にもこんなことは想定出来なかった。

「っ…!?」

突如、エビルナイトは目を見開き呟く。
「…やはり“斬れ”というのか…私に…」
「えっ…どうしたの…?」
リーストが問いても彼は沈黙したままだ。

「………やるしかない。今度は必ず斬る……」
ややあって、エビルナイトはゆっくり立ち上がり決心する。
間もなくして彼は疾風のごとく走り出した。
「ちょ…待って!!」
「まだ治りたてぇ~!」
リーストとセバが制止するが、その時にはもうオリバー達を越えようとしていた。

エビルナイト以外の者は気付けなかったが…影の左腕は彼に合図を送っていた。
それは僅かな間エビルナイトを指差し、それから宙を斬るような動作をするという…まさしく彼にしか察することの出来ない合図。
無論、伝えたかったのは
“この隙に私を斬れ”
という意味である。
何故ジャボーがオリバー達でなく彼にその勤めを任せたか…エビルナイトの心情を読み取った上で、己を最も躊躇なく傷付けられるのは彼だと判断したからだった。
彼には心身共に少々無理をさせてしまうが、重い物理攻撃が最も確実というのは確かである。


「ぐぅっ…あ、あぁ…!」
影は相変わらず、両腕の激痛に襲われていた…否、最早両腕だけに限らず全身へ広がっている。
ジャボーと対峙した時は、使い物にならない片足を強引にへし折ったが、今はそんなことも出来ない。
痛む箇所を切り捨て、苦痛を軽減することすらままならないのだ。

「おのっ…れえぇ……」
それでも尚右腕を動かそうとするが…───

「うっ…がぁあああぁぁ!!?」
「っ…!?」

またもレイナスは驚愕する。
突如、影の右目から血が流れたのだ。
「ああぁっ…ぐ……邪魔を…するなぁあああっ…!!」
どうやら、影の視界を狭めんとしたようだった。
これで、更に影の動きは封じられる。

そして。

「うっ…!?」

「…………」
影の…ジャボーの腹部を背後から刃が貫いた。
エビルナイトは、只無言で影を見つめる。
自ら呼吸を整えるため外した口布はそのままで、故に無表情が際立った。
「エビルナイト……!?」
驚き呟いたオリバーは、エビルナイトの目を見て更に目を見開く。
「っ……!」
ややあって彼らは皆辛辣な表情を浮かべた。

相当の覚悟が伺える、恐ろしいまでに冷徹な瞳と無表情。
しかし…蒼い眼はうっすら濡れているのだった。

「…なっ……ぐぉ…」
影は目を見開きつつ呻く。
まさかこんな形でやられるなどとは…
肉体が影を拒絶しつつあるのか、意識が遠のき外へ追いやられる感覚を覚えた。


いつからかモノクロに見えていた周りの世界。
それはじわじわ赤く染まってゆくのだった。

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          ~END~